Disc Review

Songbook / Gilbert O’Sullivan (Grand Upright Music/BMG)

ソングブック/ギルバート・オサリヴァン

ギルバート・オサリヴァンの新作は、『ソングブック』というアルバム・タイトルからも想像できる通り、55年のキャリアの中から選び抜かれた過去の名曲群を、シンプルなアンプラグド・アレンジで再演した1枚だ。

このアルバムのために書き下ろされた新曲が1曲。2018年の「ダンセット・ドリームス・アンド45’s」や「アイル・ネヴァー・ラヴ・アゲイン」、2022年の「ブルー・アンカー・ベイ」など近作も収められているけれど、収録曲の大半は1970年代の作品。それらを来日公演も含めた近年のコンサートでの編成——つまり、ギルバート・オサリヴァン自身がピアノを弾きながら歌って、長年の盟友ビル・シャンリーがアコースティック/エレクトリック・ギターとバック・コーラスでサポートする…というシンプルなフォーマットで聞かせてくれる。

本人がブックレットに寄せているコメントによれば、2022年、英ロンドンのバービカン・センターで行われた5夜のコンサートを所属するBMGレコードのスタッフが見に来て、このミニマムな編成でのパフォーマンスをレコーディングするべきだと進言したのだとか。そこでオサリヴァンさん、去年の暮れに同じロンドンのコンサート会場、ラファイエットで2日間、無観客のライヴ・レコーディングを行って。そこで完成したのが本作『ソングブック』。

ちなみに、「さよならがいえない(No Matter How I Try)」と「そよ風にキッス(What's in a Kiss)」はベース入り。ミックスも手がけたギャヴィン・ゴールドバーグがプレイしている。「アローン・アゲイン」と「ウィー・ウィル」、そして新曲の「ア・キス・イズ・ア・キス」にはアンディ・ライト編曲のストリングスがさりげなく添えられて、こちらもいい感じ。

でも、他はオサリヴァンさんとシャンリーさん、ふたりによる演奏だ。ギター1本をバックに歌われる「ハピネス(Happiness Is Me And You)」と レゲエっぽいニュアンスも採り入れた「ホワイ・オー・ホワイ(Why Oh Why Oh Why)」あたりはリズム・パターンとかをいじってあえてオリジナルとは違う感触を演出しているけれど、他の曲は基本的にオリジナルに忠実なフォーマットを継承しつつ聞かせる。

でもって、ああ、やっぱりアレンジに薄かろうと厚かろうと、この人が紡ぐメロディと歌詞はいいな、しみるな、と。改めて思い知らせてくれるのでした。

ぼくがギルバート・オサリヴァンという人の存在を知ったのは、トム・ジョーンズが1971年にリリースした『Tom Jones Sings She’s a Lady』ってアルバムを買ったとき。『シーズ・ア・レディ〜トム・ジョーンズ・グランプリ』ってものすごい邦題が付いていたけれど(笑)。そこに入っていた「ナッシング・ライムド」って曲の、なんだか妙に理屈っぽいような、達観しているような、でもどこか切なくて、泣ける歌詞とノスタルジックなメロディが気になって、作者であるギルバート・オサリヴァンのアルバムにも手を伸ばしたんだっけ。懐かしい。

そのアルバムが『ヒムセルフ〜ギルバート・オサリヴァンの肖像』。まだ「アローン・アゲイン」とかが大ヒットする前、1971年の本格デビュー作で。どういう人なのかとか、よくわかっていなかったのだけれど。それでもアルバム全編を貫く、どこかヴァーチャルな郷愁のようなものに、当時まだ高校生になりたてだったぼくは思いきりやられたものです。そのちょっと前に出ていた『ハリー・ニルソンの肖像』ともども、ぼくのその後の音楽趣味を決定づけてくれた二大“肖像”アルバムだな(笑)。

そのころ感じた瑞々しさとか、シニカルな諦観とか、ちょっと斜に構えた感触とか、そういうものが、今回の『ソングブック』まで変わることなく自然に連なっているんだなと思えて。なんかうれしく、ぐっときました。

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