ライヴ・アット・ザ・ハリウッド・ボウル1967/ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス
この発掘ライヴはうれしい。ぶっとんだ。
伝説のモンタレー・ポップ・フェスの2カ月後。1968年8月。イギリスではすでにブレイクを果たしていたものの、まだ本国アメリカではファースト・アルバム『アー・ユー・エクスペリエンスト』も出ていない時期(発売日の5日前)に、ママス&パパスのコンサートのオープニング・アクトとしてハリウッド・ボウルに登場したジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのライヴ音源だ。
モンタレーでも共演していたとはいえ、ママパパとジミヘン、美しいフォーク・ロック・ハーモニーと爆裂轟音ギター・ロック、なんとも過渡期ならではの組み合わせだなぁ。
ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスは、モンタレーの翌月、ご存じの通りモンキーズのツアーのオープニング・アクトをつとめたこともあった。が、ロウティーンの女の子が中心だったモンキーズ・ファンには受け入れてもらえず、ツアー途中で降板。その、さらに翌月がこのハリウッド・ボウルということになる。
観客は1万8000人。もちろんこのときも、モンキーズのオープニング・アクト時同様、たぶんウケてはいなさそう。たぶん…というのは、今回の音源には観客席の音がほとんど入っていないから。なんでも米ロサンゼルスのラジオ局KHJがこのママス&パパスのコンサートに協力していたとかで。ジミヘンたちの放送予定はなかったらしいが、局のエンジニアが2トラックのオープン・リール・テープに彼らの演奏もひそかに記録していたのだとか。えらい!
でも、ひそかな記録だけに、観客の声を録音するマイクは用意されず。なもんで、当日のジミ・ヘンたちの演奏に対してママパパ・ファンたちがどんな反応を返していたのかはさっぱりわからないのだ。年齢層的にはモンキーズ・ファンよりは上だったはずなので多少は柔軟に受け止めてもらえたのか、いや、モンキーズのときとたいして変わらなかったのか。
すでにアメリカでもシングルだけは出ていた。が、「ヘイ・ジョー」も「紫のけむり(Purple Haze)」もあまり注目されずじまいで。状況的には完全アウェイというか。知名度ほぼゼロ状態。でも、ジミヘンたちはどんな環境でもかまわない、ウケようがウケまいがどうでもいい、とにかく自分たちがぶちかましたい音楽を聞いてくれという若くポジティヴな熱意をこの日も炸裂させている。ブレイク前、どんなところにでも積極的に出ていって、どんな観客に対してでも自分たちの音楽を披露したいという熱い意欲に満ちた時期の勢いが爽快だ。
新人ということもあり、カヴァーも多数。ママパパのファンにも耳なじみがありそうなビートルズ「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」やボブ・ディラン「ライク・ア・ローリング・ストーン」をはじめ、ハウリン・ウルフの「キリング・フロア」、マディ・ウォーターズの「キャットフィッシュ・ブルース(ローリン・ストーン)」、トロッグスの「ワイルド・シング」(間奏にはもちろん「夜のストレンジャー」入り)など。どれもジミ・ヘンのレパートリーとしておなじみのものばかりではあるけれど、「サージェント・ペパーズ…」や「ライク・ア・ローリング・ストーン」あたり特に、本人たちがものすごく新鮮に演奏している感じもあって、楽しくなる。
「風の中のマリー(The Wind Cries Mary)」「フォクシー・レディ」「ファイア」「紫のけむり」といったオリジナル曲群も含め1曲ごとの演奏時間もぐっとコンパクト。果てしなく暴走する長尺ギター・ソロみたいなものはここでは味わえないのだけれど、このコンパクト感も若々しくフレッシュでごきげんだ。
さすがに当時、これはない…と反発したママパパ・ファンも多かったこととは思うけれど、何かすげえことが起こりつつあることをぼんやりとでも察知した者だって少なくなかったはず。モンタレーの映像とか見ていても思うことだけれど、ほんと、この場に居合わせてみたかった。以前取り上げたドアーズの『ライヴ・アット・ザ・マトリックス』を聞いたときも、まだ「ハートに火をつけて(Light My Fire)」が全米1位に輝くひと月半ほど前の彼らの青々とした演奏ぶりにドキドキさせられたっけ。あれも1967年のライヴ音源だったな。
タイムマシーンがあったら、迷わず1967年に行きたいよね。ビートルズの『サージェント・ペパーズ…』が出て、ビーチ・ボーイズの『SMiLE』がお蔵入りして、ドアーズやジャニス・ジョプリンやジミ・ヘンがデビューして…。ぼくももう生きてはいたけど、小学校から帰ってきたらすぐ三角ベースの草野球に没頭してばかり、遠い異国でこんなとてつもないことが起こりつつあったなんて1ミリも感知できずじまいのころだったし。大人の感性と耳を持って1967年にもう一度戻ってみたいものです。ほんと。