ナッシング・ラスツ・フォーエヴァー/ティーンエイジ・ファンクラブ
来年2月から3月にかけて来日が予定されているティーンエイジ・ファンクラブ。
2021年に出た前作『エンドレス・アーケイド』を取り上げたときにも書いたことだけれど。多くのファン同様、ぼくも1991年の大傑作『バンドワゴネスク』でこの人たちのとりこになって。以降、30年以上にわたり聞かせ続けてくれている、爽快さと憂鬱さを絶妙にブレンドした独特のオルタナ・ポップ・サウンドにハマり続けているわけですが。
12作目の新作、出ました。前作からジェラード・ラヴが離脱し、ノーマン・ブレイク、レイモンド・マッギンリー、フランシス・マクドナルド、デイヴ・マクゴワン、ユーロス・チャイルズというラインアップに。この新体制での第2弾アルバムということになる。ウェールズの片田舎、モンマス近郊のロックフィールドスタジオでレコーディング。当然、ジェラードの曲はひとつもなく。ノーマンとレイそれぞれのオリジナルが5曲ずつ、1曲おきに並んだ全10曲だ。
憂鬱さとか、内省的な手触りのようなものを音像の奥底に滲ませながら、ジャングリーなギターでぐいぐい推進していく感じのティーンエイジ・ファンクラブ流パワー・ポップが楽しめるのだけれど。少し穏やかになったかな。1970年代ローレル・キャニオンをストレートに想起させる音像。ユーロス・チャイルズが随所でいい仕事していて。アナログ・シンセやオルガンでいいカウンターラインを提供。アンサンブルをより豊かなものにしている。
2010年の『シャドウズ』あたりから、成長するとともに徐々に変化していく意識というか、歳を取ることへの複雑な思いとか死への恐怖とか、そういったものと闘いながらいかに心を平穏に保てるか…みたいなテーマが楽曲の表層に浮かび上がってくるようになって。ああ、ティーンエイジ・ファンクラブもバンド名と裏腹に大人になったのね、と感慨深く受け止めたものですが。
その流れは今回のアルバムでも継続。ただ前作で、特にノーマンがけっこうこじれた、荒涼とした心情を吐露していたのに対し、今回はちょっと光が差してきているような感触も。去年先行リリースされた「アイ・レフト・ア・ライト・オン」って曲では、まだ“ぼくの人生は意味を失っていた/ぼくは孤独の魂だった”とか歌っていて。喪失感ハンパない感じではあるのだけれど。そんな孤独の中を歩きながらも“でも、きっと流れは変わる/ぼくは君のために灯りをつけておいた”と結ばれていて。ノーマンのいい意味での楽観主義が蘇ってきた感じで、うれしい。
ノーマンの曲だと、他にもウィリアム・ブレイクの「無垢の予兆」からの引用で歌い出されるポール・マッカートニーっぽいシャッフル・チューン「セルフ・セデイション」とか、おー、ビッグ・スターじゃん! 的な「バック・トゥ・ザ・ライト」とか、いい感じに外向き。思えば「バック・トゥ・ザ・ライト」とか、タイトルからして明るいじゃないすか。
“ライト”つながりだと、レイの曲で「シー・ザ・ライト」ってのもあって。ここでは“もううろつく必要はない/故郷に帰ろう/光を見るために”とか歌っている。「タイアド・オヴ・ビーイング・アローン」って曲では“気持ちも回復した/みんな元気になった/ひとりぼっちに飽きたら/一緒に季節の移ろいを眺めよう”みたいなことを淡々と綴っていて。パンデミックからの回復とも思えるけれど、長年のバンドメイトへの思いのようにも聞こえて、ぐっときます。
来日が楽しみ。