Disc Review

Jackson Browne (2022 Remaster) / Jackson Browne (Inside Recordings)

ジャクソン・ブラウン・ファースト(2022リマスター)/ジャクソン・ブラウン

現地時間の9月23日、インディアナ州で開催された“ファーム・エイド2023”に、現在82歳のボブ・ディランがサプライズ登場。かつてタッグを組んでワールド・ツアーしたこともある仲間、ザ・ハートブレイカーズのマイク・キャンベル、ベンモント・テンチ、スティーヴ・フェローニらをバックに従えて、なんと! エレキ・ギター抱えて往年のフォーク・ロック・チューンを3曲ぶちかましてくれたのには、まじぶっとんだ。

4月に実現した来日公演もむちゃくちゃ素晴らしかったけれど。あの感動すら上回る凄み。エレキ抱えたらこの曲…という感じの「マギーズ・ファーム」とか、しびれた。間もなく始まる北米ツアーはどんなことになるんだろう。このファーム・エイドでのパフォーマンスが何らかの予告編だったりするのかな。だとしたらやばさ百万倍だ。

ローリング・ストーンズの新作もすごいことになりそうだし。先日74歳の誕生日を迎えて「ガールズ・イン・ゼア・サマー・クローズ」のオフィシャル・クリップを公開してくれたブルース・スプリングスティーンも、今ちょっと体調を崩してお休み中ながら激烈ツアー展開中だし。90歳のウィリー・ネルソンをはじめ、ヴァン・モリソンやらグレアム・パーカーやらプリテンダーズやらも充実の新作アルバムを届けてくれているし。

コロナ明けの今年は、先述したボブ・ディランや日本武道館100回目の公演を行なったエリック・クラプトンなど、次々とベテラン・アーティストが来日もしてくれて。日本にいながらにして英米のレジェンドたちの底力を生で思い知らされた1年でもあった。

昨夜のビルボード・ライヴ東京もすごかった! 現在81歳のダン・ペンと80歳のスプーナー・オールダムのデュオ・コンサート。来日初日のファースト・セットを見たのだけれど。これがまたやばいくらいに素晴らしく。まだ今夜以降も、東京の2夜目とか、横浜とか、大阪とか、来日ツアーが続くので詳しいことは書きませんが。

なんだかこの二人、歳を取れば取るほど凄みが増すというか。シャウトしたり、汗をほとばしらせたり、そんなこと一切しなくとも、自然体で訥々と楽器を奏で、つぶやくように歌うだけでソウルフルという感触の極致を実現することができるんだな、と。今回もまた改めて思い知らされましたよ。

歳を取ったら枯れる…みたいなこれまでの常道では語りきれない時代。隠居とか、ないな。年輪を重ねたアーティストが若さを失うのと引き換えに渋さを増して枯れた表現を…とか、そういう在り方ではなく、往年のクリエイティヴィティをそのまま維持しつつ、キャリアを重ねたぶんの深みをもそこに乗っけていく、と。そういう時代になった。

ディランやクラプトンやペン&オールダムだけでなく、この人も今年の春、そんな事実を見せつけてくれたものです。ジャクソン・ブラウン。現在74歳のジャクソンさんが今年の3月から4月にかけて行なった最新来日公演も素晴らしかった。もちろんデビュー50周年の年輪もしっかり感じさせつつ、なお、デビュー当初と変わらぬ瑞々しさも届けてくれるステージで。感動したっけ。

そんなジャクソン・ブラウンが半世紀ちょい前、1972年にリリースしたファースト・ソロ・アルバム『ジャクソン・ブラウン・ファースト(Jackson Browne)』がこのほど本人監修の最新リマスターをほどこされて180g重量盤LPとCDで再発されましたよー。7月に2014年リマスター音源を使って出た『レイト・フォー・ザ・スカイ』や、2018年リマスター音源を使った『孤独なランナー(Running On Empty)』に続く再発シリーズ最新リリースってことになる。うれしい。

ぼくがジャクソン・ブラウンというシンガー・ソングライターの存在を意識したのはこのファーストが出るちょっとだけ前のことで。ザ・バーズの1971年のアルバム『バードマニア(Byrdmaniax)』でクラレンス・ホワイトが歌っていた「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」の作者としてだった。翌年、今度はニッティ・グリッティ・ダート・バンドが彼らのアルバム『オール・ザ・グッド・タイムズ』でこの曲をカヴァーしていて。なんだかすごく沁みる曲だなと子供心に印象深く。

やがてニコの「ジーズ・デイズ」もリンダ・ロンシュタットの「ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター」もイーグルスの「テイク・イット・イージー」もこの人の曲だってことを知って。その辺をとっかかりに、オリジナル・リリースから数年遅れてジャクソン・ブラウン本人のこのデビュー・アルバムへとたどり着いたのだけれど。

初めて手に入れてAB面聞き通したときに感じた、あー、これってなんだか青春? という感触が今でも忘れられない。A面1曲目の「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」はもちろん、デヴィッド・キャンベルのヴィオラが泣ける「アダムに捧げる歌(Song For Adam)」とか、ポップな「ドクター・マイ・アイズ」とか、リア・カンケルの掛け合いコーラスが印象的だった「銀色の湖から(From Silver Lake)」とか、当初“明日の海へ”って邦題もついていた「ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター」とか、いい曲ぞろいで。

ラス・カンケル、リー・スクラー、クレイグ・ダーギ、アルバート・リー、クラレンス・ホワイト、ジェシ・エド・デイヴィス、スニーキー・ピート・クレイノウ、ジム・ゴードン、クロスビー&ナッシュ、ニッティ・グリッティのジミー・ファデンなど、参加ミュージシャン陣も、当時ちょっとずつセッション・ミュージシャンのことが気になり始めていたぼくには興味深い顔ぶれだった。

そういえば、今年ぼくが見に行った3月28日の東京公演でもこのアルバムから3曲、「ジャマイカ・セイ・ユー・ウィル」「ロック・ミー・オン・ザ・ウォーター」「ドクター、マイ,アイズ」を歌ってくれていたけれど。古い曲を懐かしく演っている感触はまるでなし。すべて現役の、今の時代に有機的に機能する楽曲として響いてきた。この人のソングライターとしての地力と、シンガーとしての底力とに改めて感服したものです。

この瑞々しいデビュー・アルバムを聞きながら、同じアーティストが半世紀後の今年春の来日公演の素晴らしさに無理なく思いを重ねることができるなんてうれしい限り。そういう表現者が元気でいてくれることに感謝です。音楽ってほんとすごい。

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