Disc Review

Sailin’ Shoes (Deluxe Edition) + Dixie Chicken (Deluxe Edition) / Little Feat (Rhino/Warner)

セイリン・シューズ(デラックス・エディション)+ディキシー・チキン(デラックス・エディション)/リトル・フィート

以前、『ウェイティング・フォー・コロンブス』のCD8枚組スーパー・デラックス・エディションを本ブログで取り上げた際、リトル・フィート入門にはどのアルバムがいいのか…的な話を書いたのだけれど。

初めて国内盤として出た1974年の『アメイジング!(Feats Don't Fail Me Now)』か。ニューミュージック・マガジン誌で矢吹申彦さんが100満点を付けたことでもおなじみ、1975年の『ラスト・レコード・アルバム』か。ライヴ・バンドとしての実力を遺憾なく発揮した1978年の『ウェイティング・フォー・コロンブス』か。ぼくは断然『ウェイティング・フォー…』を推しているわけだけど。

いやいや、一般論的に言えば、やっぱりここはロウエル・ジョージ、ビル・ペイン、リチャード・ヘイワード、ポール・バレア、ケニー・グラッドニー、サム・クレイトンという鉄壁の第2期ラインアップで最初にレコーディングされた1973年の『ディキシー・チキン』。これが妥当な選盤なのだろうと思う。紛う方なき代表作。

さっきも書いた通り、リトル・フィート初の国内盤は『アメイジング!』で。その前作にあたる『ディキシー・チキン』はリアルタイムに国内リリースされなかった。そんなこともあって、ぼくがこの傑作を耳にしたのはリリースから数年遅れ。リトル・フィートというバンドの存在は、ヴァン・ダイク・パークスやはっぴいえんどのアルバムを通してぼんやり耳にしてはいたものの、オリジナル・アルバムがリリースされた1973年の段階では何ひとつ具体的な感触をつかんではいなかったっけ。

それだけに数年後、『ディキシー・チキン』の盤を手に入れたとき、アルバム全編を貫くそのファンキーでグルーヴィーなロック・サウンドにぶっとんだものだ。盤を手に入れたのはもう1975年になってからだった気もする。1975年から76年にかけて、鈴木茂の『バンド・ワゴン』や、矢野顕子の『ジャパニーズ・ガール』といった日本の傑作アルバム群への客演も含めて、リトル・フィートはどんどんぼくの中でも存在感を強めていった。

でもって、さらにさかのぼって1972年のセカンド・アルバム『セイリン・シューズ』や1971年のファーストとかも手に入れて。特にセカンド。『セイリン・シューズ』。ぼくはこのアルバムにまたまた思いきりぶちのめされたのだった。個人的なフェイバリット作かも。もちろん、『ディキシー・チキン』のタイトでファンキーでキャッチーな音世界は圧倒的だし、初めて買った『アメイジング!』も忘れられないけれど、そうなる以前、『セイリン・シューズ』のどこかやさぐれ気味に荒れた音像により激しく心を揺さぶられたのでした。

「コールド・コールド・コールド」冒頭のドラム・フィルに顔面をひっぱたかれた気分になった。「トライプ・フェイス・ブギー」も「アポリティカル・ブルース」も再演版「ウィリン」も表題曲も全部すごかった。ロウエル・ジョージ、ビル・ペイン、リチャード・ヘイワード、ロイ・エストラダという初期4人体制の、まだちょっとゆるめにうねるグルーヴがたまらなかった。初めてネオン・パークのイラストを起用したジャケットもやばかった。

と、そんな『セイリン・シューズ』と『ディキシー・チキン』。初期から中期への移り変わりのダイナミズムを思いきり楽しめる重要な2作のデラックス・エディションが出ましたー。どちらも2枚組。輸入盤ならばアナログLP3枚組仕様もあります。両者とも、CD1(LP1)にオリジナル・アルバムの2023年最新リマスター・ヴァージョンを、CD2前半(LP2)に別ヴァージョン、アウトテイク、CD2後半(LP3)にライヴ音源を詰め込んでいる。追加音源に関しては2000年のボックスセット『ホットケイクス&アウトテイクス』やCDのボーナス・トラックなどで既出のものも一部含まれているけれど、今回初出のものもけっこう多い。しゃちょー、うれしいー。

『セイリン・シューズ』のCD2にはドゥービー・ブラザーズのために用意された「イージー・トゥ・フォール」(「イージー・トゥ・スリップ」の初期ヴァージョン)と「テクサス・ローズ・カフェ」のデモや、まだ「ブギー」とだけ題された「トライプ・フェイス・ブギ−」の初期ヴァージョン、「ウィリン」の別ヴァージョン、「イージー・トゥ・スリップ」のモノ・シングル・ヴァージョンなどに加えて、1971年8月にロサンゼルスのザ・パレイディアムで収録された全10曲の未発表ライヴ音源を収録。これがオリジナル・ラインアップによる唯一のマルチ・トラック・ライヴ録音なのだとか。やばい。

『ディキシー・チキン』のCD2には「トゥー・トレインズ」「ファット・マン・イン・ザ・バスタブ」などのデモ、超有名なアウトテイク「エルドラド・スミス」「エイス・イン・ザ・ホール」、表題曲や「ロール・アム・イージー」などの別ヴァージョンに加えて、1973年4月、ボストンのポールズ・モールで収録された全7曲の未発表ライヴを収録。

個人的にはやはり『セイリン・シューズ』のボーナス・ライヴ音源10曲が最高に強力に貴重な贈り物だった。

現在のフィートはメンバーががらりと入れ替わってしまってはいるものの、これらデラックス・エディションの再発を受けて、9月下旬から北米で“ジ・アルバム・ツアー”ってやつを敢行するそうです。各地で2夜ずつ、1日が“セイリン・シューズ・プラス・ザ・ヒッツ”ナイト、もう1日が“ディキシー・チキン・プラス・ザ・ヒッツ”ナイト。アルバム全曲演奏+代表曲ってセットリストなのかな。おー。見たいなぁ。日本にも来ないかなぁ…。

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