NBPファイル vol.34:追悼 アート・ラボー
“オールディーズ”という言葉が生まれたのはいつごろか。イメージとしてはなんとなく1970年代、映画『アメリカン・グラフィティ』がブームになったころに、1950〜60年代のまだイノセントだったポップ・ヒットを懐かしむために生まれたのかなと思われるかもしれないけれど。
この言葉、驚いたことに、実は1950年代のうちに生まれていた。命名者はロサンゼルスのKPOP局でディスクジョッキーを務めていたアート・ラボー。彼は1956年ごろ、ハリウッドの《スクリヴナーズ・ドライヴ・イン》という名のドライヴイン・レストランで平日の午後3時から6時まで番組を生放送していた。それがティーンエイジャーたちの間で大いに人気を呼び、局きっての人気番組となった。毎日、夕方になると白人、黒人、ラテン系など人種の壁を越えたティーンエイジャーたちが《スクリヴナーズ・ドライヴ・イン》に集まり、盛り上がっていたらしい。
ラボーは番組のためのプレイリストの最後に必ず数年前のヒット曲を2〜3曲リストアップ。彼はそれらを“オールディーズ・バット・グッディーズ”と呼び、当時の最新ヒットに交えてオンエアしていた。これが不思議と若者に受けた。彼らからリクエストを募ると、その種のちょっと古めの曲に多くが集中したのだとか。それをきっかけにラボーは、番組と同じコンセプトをレコードにも反映しようと思い立った。そして、自ら設立したオリジナル・サウンド・レコードから『オールディーズ・バット・グッディーズ Vol.1』というコンピレーション・アルバムをリリースした。1959年のことだ。
この“オールディーズ・バット・グッディーズ”、つまり“古いけれども良いもの”というフレーズが短縮されて“オールディーズ”となったわけだけれど。じゃ、その『オールディーズ・バット・グッディーズ Vol.1』というコンピにはどんな曲が入っていたか。1930年代の曲とか1940年代の曲というわけじゃない。ラボーがラジオで扱っていたのと同じ、ほんのちょっとだけ古めの曲。
実際の収録曲からいくつかピックアップすると、ファイヴ・サテンズの「イン・ザ・スティル・オヴ・ザ・ナイト」をはじめ、ペンギンズの「アース・エンジェル」、ティーンクイーンズの「エディ・マイ・ラヴ」、メロー・キングスの「トゥナイト・トゥナイト」、シャーリー&リーの「レット・ザ・グッド・タイムス・ロール」、ソニー・ナイトの「コンフィデンシャル」、エタ・ジェイムスの「ダンス・ウィズ・ミー・ヘンリー」など。どれも1954〜57年ごろのドゥーワップやリズム&ブルースばかり。これこそ、“オールディーズ”という言葉が生まれたころのオールディーズだったわけだ。
このコンピは当時大ヒット。全米アルバムズ・チャートの12位にランクし、合計183週にわたってチャート・インし続けた。A面1曲目に収められていた「イン・ザ・スティル・オヴ・ザ・ナイト」など、1956年にリリースされたときは最高24位までしか上昇しなかったにもかかわらず、だ。Vol.1が売れたのだから、当然、続編が次々作られて。1972年まで、10数年かけてまずは12作。その後1980年代に入って3作。結局、『オールディーズ・バット・グッディーズ』シリーズは、最終的に1985年、Vol.15が出るまで続けられたのでありました。
このコンピがねー。ほんと、選曲が素晴らしくて。特に1970年代までに出た12枚。まだCDもなく、再発シーンもまだ整備されておらず、当然まだストリーミングなんて影も形もない時代、でもオールディーズのオリジナル・シングルなんか扱っている店も日本では数えるほどで、しかも高価で、かといってインターネットとかないから海外の店舗から買うのもハードル高くて…。と、そんな時代にこのアート・ラボーの『オールディーズ・バット・グッディーズ』シリーズは本当にありがたい存在だった。
ぼくも当時この12枚を集めて、まず日本のラジオじゃ絶対にかかりそうもないオールディーズの名曲たちを楽しみまくっていたのでした。あー、懐かしい。そういう意味でもアート・ラボー、日本では彼のラジオ番組をそのまま楽しむことはできなかったけれど、このシリーズを通してDJ的な役割をしっかり果たしてくれた。ぼくのようなオールディーズ・ファンにとっては、ジム・ピューター、ウルフマン・ジャック、糸居五郎、亀渕昭信、大滝詠一、山下達郎ら、それぞれの番組で素敵なオールディーズをぼくたちに紹介してくれたラジオDJたち同様、かけがえのない恩人のひとりなのだ。
そんなアート・ラボーが亡くなった。10月7日の夜、肺炎のためカリフォルニア州パームスプリングスの自宅で。享年97。亡くなる直前まで現役で、最後のラジオ番組を制作していたというから、きっと幸せな、充実したDJ人生だったのだろうなと思う。
というわけで、今週のスロウバック・サーズデイ恒例、NBPプレイリストは、アート・ラボーへの感謝をこめて、彼の『オールディーズ・バット・グッディーズ』シリーズとして1970年代までに出た12枚それぞれから1曲ずつ、ぼくの好きな曲をピックアップしたセレクションです。実際、このコンピ・シリーズに収められていた曲で嫌いなものなどひとつもないのだから、12曲ですむはずもない。けど、むりやり1枚1曲、今の気分で選んでみました。
アート・ラボーさん。心から感謝します。あなたはぼくの人生にこの上ない喜びと幸せをもたらしてくれた恩人です。天国でもごきげんなオールディーズをスピンし続けてください。どうぞ安らかに…。
RIP Art Laboe. Those Oldies but Goodies Remind Me of You.
- In The Still of the Night / The Five Satins (1956, from “Oldies But Goodies Vol. 1”)
- Gee / The Crows (1953, from “Oldies But Goodies Vol. 2”)
- You Cheated / The Shields (1958, from “Oldies But Goodies Vol. 3”)
- Tell Me Why / Norman Fox & The Rob Roys (1957, from “Oldies But Goodies Vol. 4”)
- Angel Baby / Rosie & The Originals (1960, from “Oldies But Goodies Vol. 5”)
- Those Oldies But Goodies (Remind Me of You) / Little Caesar & The Romans (1961, from “Oldies But Goodies Vol. 6”)
- He Will Break Your Heart / Jerry Butler (1960, from “Oldies But Goodies Vol. 7”)
- This Time / Troy Shondell (1961, from “Oldies But Goodies Vol. 8”)
- What's Your Name / Don & Juan (1962, from “Oldies But Goodies Vol. 9”)
- You Belong To Me / The Duprees (1962, from “Oldies But Goodies Vol. 10”)
- Goin' Out Of My Head / Little Anthony & The Imperials (1964, from “Oldies But Goodies Vol. 11”)
- I'm Your Puppet / James & Bobby Purify (1966, from “Oldies But Goodies Vol. 12”)