Disc Review

Live At The El Mocambo / The Rolling Stones (Polydor)

ライヴ・アット・エル・モカンボ/ザ・ローリング・ストーンズ

最近はCDなら1枚ものとしてリリースされる普通の新作でも、アナログ盤化されるときは2枚組になっちゃったりすることが多くて。音質的な問題を解決するためなのかな。ぼくはCDよりLPのほうが音的にも見た目も断然好きではあるのだけれど、むりやり2枚組になっているようなものは正直ちょっとめんどくさい気も…。

昔はそんなに2枚組アルバム自体がなかったから。スペシャル感も強くて。2枚組を買うとなるととてつもなく気合いが入ったものだ。値段も高いしね。なもんで、買ったらそのぶんめいっぱい聞きまくった。で、仲間内で、自分はそのアルバムの何面が好きか、と。『ホワイト・アルバム』だったら、俺はB面だな、とか。『ブロンド・オン・ブロンド』もB面が好きだったけど、最近はC面がいい、とか。『フリーク・アウト!』のD面が最近ようやくわかってきた、とか。あーだこーだ論議が巻き起こったりして。楽しかったなー。

ローリング・ストーンズが1977年にリリースした『ラヴ・ユー・ライヴ』もそんな感じで。1975年夏の北米ツアー、1976年の欧州ツアー、1977年のカナダ・ツアーの音源で構成されたLP2枚組ライヴ・アルバム。このアルバムに関しては、まあ、同じことを感じた方も多いとは思うけれど、ぼくはとにかくC面が好きだった。

C面には1977年3月4日と5日、トロントの300人収容のクラブ、エル・モカンボ・タヴァーンで収録された音源が4曲入っていて。マディ・ウォーターズの「マニッシュ・ボーイ」、ボ・ディドリーの「クラッキン・アップ」、ハウリン・ウルフの「リトル・レッド・ルースター」、チャック・ベリーの「アラウンド・アンド・アラウンド」。この、バンド初期に立ち返ったかのようなチェス系ブルース/ロックンロールのカヴァーもの4曲が、小さなクラブでの録音というシチュエーションも含めてむちゃくちゃかっこよく聞こえたものだ。

このエル・モカンボ公演はストーンズが“コックローチズ”なる変名で行なった伝説的シークレット・ライヴ。ラジオ番組で観客を募って行なわれた。メイン・アクトがエイプリル・ワインで、そのオープニング・アクトをコックローチズってバンドがつとめる、と。そういう体だったらしい。もちろん実際にはオープニング・アクトがエイプリル・ワイン、メインがコックローチズことストーンズだった。初日、4日のほうのお客さんは特に驚いたに違いない。

もともとは1960年代初期のクラブ・ギグのように古いブルースやR&Bのカヴァーばかりを披露するつもりだったらしい。けど、キース・リチャーズが直前にドラッグ不法所持で逮捕されちゃって。すぐに保釈金積んで釈放されたものの、リハーサルができず、仕方なくわりとライヴでやり慣れている曲ばかりのセットリストになったのだとか。『ラヴ・ユー・ライヴ』にはそこから元々の意図に近いカヴァーものだけがセレクトされて、後日オーヴァーダビングなどもほどこされたうえで収録されていたわけだ。

と、そんな伝説のクラブ・ギグの全貌が、なんと、ついに、このほどオフィシャル・リリースされた。オープニングの「ホンキー・トンク・ウィメン」から20曲目の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」までが3月5日のフルセット。その後に入っている3曲が4日からのボーナス・トラック。全23曲、ボブ・クリアマウンテンがすべてを見事にミックスして聞かせてくれる。

『ラヴ・ユー・ライヴ』に入っていた4曲中3曲(「マニッシュ・ボーイ」「クラッキン・アップ」「アラウンド・アンド・アラウンド」)は5日の録音だったので、それらは今回再収録という形。「マニッシュ・ボーイ」とか、ミック・ジャガーが後日ダビングしたというハーモニカがこちらにも入っている。まあ、せっかく入れたんだから、入れたものは再利用しながらの新ミックスということか。ちなみに、『ラヴ・ユー・ライヴ』収録の4曲中残る1曲「リトル・レッド・ルースター」は4日の音源だったので、今回は5日ヴァージョンの初お目見え。

それにしても4日からのボーナス3曲の選曲が興味深すぎる。『ブラック・アンド・ブルー』からの「メロディ」、『イッツ・オンリー・ロックンロール』からの「ラグジュアリー」、そして1970年代半ばに録音されながら『タトゥ・ユー』が出るまでお蔵入りしていた「ウォリード・アバウト・ユー」。なんか、この辺聞くと、「リトル・レッド・ルースター」も含めて4日の全貌も出してもらいたい気分になる。4日は1曲目が「ルート66」だったみたいだし…。

いずれにせよ、狭いクラブでのギグ。先述した通り、結果的にはストーンズのオリジナル曲中心のセットリストになったとはいえ、『ラヴ・ユー・ライヴ』にピックアップされた4曲のカヴァーに通じる、ワイルドで、どこか初々しい感触がそうしたオリジナル曲のほうにも貫かれていて。痛快だ。やっぱりチャーリー・ワッツ&ビル・ワイマンのリズム隊は、いろいろドタドタしてるけど、そこも含めて最高!

CD2枚組の他、黒とカラー2種類のLP4枚組もあり。4枚組か。もはや何面が好きとか、言ってらんないな…(笑)。

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