エル・ミラドール/キャレキシコ
アメリカーナというか、ラティーノというか、メキシカンというか、なんとも妖しく魅惑的なルーツ音楽を奏で続けてくれているキャレキシコ。彼らが初アルバム『スポーク』をリリースしたのが1996年で。ぼくが手探りでホームページとか立ち上げ始めたころ。だったもんで、初期はアルバムが出るたび、こことか、こことか、こことか、何かと取り上げてきたものですが。
そんな彼らもいつの間にやら25年選手。けっして多作なバンド/ユニットではないものの、このほどめでたく10作目のオリジナル・スタジオ・アルバムが届きましたー! それが本作『エル・ミラドール』。核を成す2人のメンバー、マルチ・インストゥルメンタリストのジョーイ・バーンズとドラマーのジョン・コンヴァーティノはパンデミック中の2021年夏、キャレキシコ誕生の地、アリゾナ州ツーソンで結集。バンドメイトのキーボード奏者、セルジオ・メンドーサのホーム・スタジオでレコーディングに取り掛かったのだとか。
ツーソンまで来れないバンド・メンバーやゲスト・ミュージシャンたちとは音源をファイルでやりとりしながらの作業。結果、アメリカ、メキシコ、スペイン、ドイツ、イタリアを音が巡るレコーディングになったそうだ。で、最終的にはオレゴン州ポートランドでミックスが行なわれて、アルバムが完成に至った、と。
2015年の『エッジ・オヴ・ザ・サン』にも参加していたグアテマラ生まれの女性シンガー・ソングライター、ギャビー・モレノや、イタリアのギタリスト、アレッサンドロ・“アッソ”・ステファーナ、2008年のデビュー作や2013年の『カスアリダデス』などをキャレキシコのサポートの下で作り上げたスペインのデペドロことジャイロ・ザヴァラ、2019年のアルバム『イヤーズ・トゥ・バーン』でもがっつりタッグを組んでいたアイアン・アンド・ワインことサム・ビームなども客演。以前からちょいちょいコラボしている女性シンガー・ソングライターのピエタ・ブラウンはここでも2曲のソングライティングに手を貸していて、深い“行間”をたたえた歌詞を提供している。
今回もクンビア、ランチェーラ、マリアッチ、コリドス、ソンなど、多彩でカラフルなボーダー・ミュージックがイマジネイティヴに交錯する。トランペット、ヴァイオリン、ナイロン弦ギターなどのオーガニックな響き、妖しげなリヴァーブ、強烈にドライヴするパーカッション群、そしてエレクトロニックな要素などとスリリングに絡んで、なにやら不思議な無国籍音空間を構築している。
ジョーイ・バーンズとジョン・コンヴァーティノを中心に、ひとクセある音楽仲間が集まって、普通のバンドとはまた違う、不思議な吸引力に満ちた、サイケデリックで、とてつもなくやばいルーツ・ミュージック・ユニットを形成しているような。
パンデミックによって改めて思い知ったことのひとつは、家族、友人、仲間、共同体の大切さ。そしてそれら大切なものがこの時代、いかに分断され、壊れようとしているかという事実。でも、音楽はそうした分断に橋をかける存在だ、人々や社会に包摂性や積極性をもたらす手段だ、と。キャレキシコはそうコメントしていて。そのあたりの思いを託した1枚という感じなのだろう。
やっぱいいなぁ、この人たち。