Disc Review

John Sebastian and Arlen Roth Explore the Spoonful Songbook / John Sebastian & Arlen Roth (BMG Rights Management)

ザ・スプーンフル・ソングブック/ジョン・セバスチャン&アーレン・ロス

ジョン・セバスチャンという人にはどうにも抗えない。全肯定。もちろんラヴィン・スプーンフル時代の名曲群も大好きだけれど。ぼくの場合、年齢的に彼らの全盛期をリアルタイムではぎりぎり体験できなかった世代。初めてリアルタイムでゲットしたスプーンフルのレコードは、1970年になぜかリヴァイヴァルのような形でシングル・リリースされた「サマー・イン・ザ・シティ」だった。なもんで、それ以前の「魔法を信じるかい(Do You Believe In Magic)」とか「デイドリーム」とか、そのあたりは後追い。

結局、ジョン・セバスチャンに関してはその後のソロ活動を通じて魅力をじわじわ思い知っていった世代だ。フォーク、カントリー、ジャグ・バンドといったルーツ系の要素から、マジカルでドリーミーなポップ曲まで、実にバランスよく多彩な個性を発揮した1970年のファースト・ソロ『ジョン・B・セバスチャン』とか、個人的には今なお最名盤かな。

キーボードのポール・ハリスほか必要最小限のバックアップを適所に配しつつ、自らのギターと歌声を存分に駆使してラヴィン・スプーンフル時代のレパートリーから、ブルースやカントリー、ドゥーワップ、R&Bのカヴァーを気ままに披露しまくった同年の『リアル・ライヴ(John Sebastian Live)』もこの人らしい実に温かい仕上がりだったし。フォーク、カリビアン、ロックンロール、カントリー・ロックの4要素を順に展開する長尺タイトル曲が話題となった1971年の『フォー・オブ・アス』も素敵だった。

ローウェル・ジョージ、ライ・クーダー、デイヴィッド・リンドレー、エイモス・ギャレットら魅力的なギタリスト勢がサポートした1974年の『ターザナ・キッド』も渋谷あたりのロック喫茶とかで本当によく聞いた覚えがある。ここに含まれた「スポーティン・ライフ」にはかつて心底ハマった。ラヴィン・スプーンフル時代にも取り上げていたサニー・テリー&ブラウニー・マギー作品のカヴァーというか改作というか。でも、この『ターザナ・キッド』ヴァージョンが最高だった。セバスチャンの絶妙なギターが泣けた。ああ、懐かしい。

まあ、世の中的には1976年の全米ナンバーワン・ヒット「ウェルカム・バック」あたりをピークに、シーンからフェイドアウトした存在として受け止められているのかもしれないけれど。NRBQと組んでツアーしたり、佐野元春のレコーディングにゲスト参加したり、フリッツ・リッチモンドやジェフ・マルダーらとジャグ・バンド・プロジェクトを展開したり、ポール・リシェル&アニー・レインズとトリオで活動したり、イーヴン・ダズン・ジャグ・バンド仲間のデヴィッド・グリスマンとアルバムを出したり…。

と、そんなジョン・セバスチャン。新作、出しました。オリジナル・フル・アルバムとしてはたぶん、そのグリスマンと組んで2007年に出した『サティスファイド』以来かな。今回も頼もしい相棒とのジョイント・プロジェクト。組んだ相手は凄腕ギタリストとしておなじみ、アーレン・ロスだ。

カントリー・ロック・ギタリストにとって欠かせないテクニックのひとつであるペダル・スティール・リックを、しかしストリング・ベンダーのような器具を使うことなく、指の技術だけで軽々とこなしてしまうとんでもない男。この人が日本の音楽ファンの前で、そのウルテクを初披露したのは1977年に行なわれたマッド・エイカーズ・リユニオン・コンサートのメンバーとしてだったけれど。3つの弦を押さえてそのうちのひとつだけをチョーキングするだけでは終わらず、2つの弦を同時に、何の装置も使わずにそれぞれ全音と半音とチョーキングする超絶ダブル・ベンドとか、平気でぶちかましてくれて。まじ、ぶっとんだものだ。ぼくもそのテクを盗もうとあれこれ奮闘したものの、結局何ひとつマスターすることなく挫折してしまったっけ。

そういう意味では、ジョン・セバスチャンとアーレン・ロス。ぼくと同世代の米国音楽好きにはまさに夢の共演という感じだと思う。

そんな二人の共演を記録したアルバムが『ジョン・セバスチャン・アンド・アーレン・ロス・エクスプロア・ザ・スプーンフル・ソングブック』。タイトルからもわかる通り、ラヴィン・スプーンフルの名曲群を再演した1枚だ。なんでも、ラヴィン・スプーンフルの大ファンだったアーレン・ロスからの提案で実現したプロジェクトらしい。最初のうちジョン・セバスチャンはあまり乗り気ではなかったようだけれど、スプーンフルのギタリスト、ザル・ヤノフスキーのギター・スタイルを愛し、細部まで知り抜くアーレン・ロスの熱意に押されてOKしたのだとか。

二人はウッドストックにあるクリス・アンダースンのネヴェッサ・スタジオでレコーディングを開始。アルバムを完成させた。YouTubeで二人で新たなプロジェクトをスタートさせた旨、報告があったのが2017年ごろ。二人だけでライヴをやっている映像もちょいちょい流れて。あれから4年。ついに形になりました。ジョン・セバスチャンがギター、オートハープ、バンジョー、ハーモニカなどを自ら担当。アーレン・ロスはもちろんギター。アイラ・コールマンがベース、エリック・パーカーがドラム)、ジェフ・マルダー、マリア・マルダー、モナリザ・ツインズ、アーレンの娘さんであるレキシー・ロスらがヴォーカル/コーラス。そんな顔ぶれでラヴィン・スプーンフル時代のジョン・セバスチャン作品を、リラックスしたムードの下、綴ってみせている。

年輪を重ねてぐっと枯れたジョン・セバスチャン自身の渋い歌声で、あるいはゲスト・シンガーたちの歌声で、アーレン・ロスの巧みなギター演奏で、みんなの口笛ユニゾンで…。様々なアプローチで往年の名曲14曲がしみじみとよみがえる。マリア・マルダーとデュエットしている「ストーリーズ・ウィー・クッド・テル」とか、けっこう泣けます。

秋晴れの朝のウォーキングBGMにぴったりかな。

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