ベター・エンジェルズ/アダム・ダグラス
米国オクラホマ生まれ。その後、シカゴ、ミネアポリスと拠点を移した後、現在はノルウェーへと渡り、北欧アダルト・コンテンポラリー・サウンドの担い手として人気を博すバンド“ハイ・レッド”のリード・シンガーとして活躍中。そんなアダム・ダグラスの新作ソロ・アルバムだ。スタジオ・レコーディングものとしては、2015年の『メイ・ネヴァー・ラーン』、2018年の『ザ・ビューティ&ザ・ブローン』に続くソロ3作目…かな。
今月、アダムさんは40歳になったとかで。人生の折り返し地点を迎えるにあたって、もう一度、自分の内面を見つめ直して、アメリカ人としてのアイデンティティーとか、音楽的なルーツとか、そうしたものを改めて検証するフェーズに入ったのだとか。そんな自己検証作業から生まれたのが本作『ベター・エンジェルズ』だったらしい。
ということで、全編にわたってこれまで以上にいい感じのブルー・アイド・ソウル味漂う1枚に仕上がっている。「チェンジ・マイ・マインド」のみ、UKの女性シンガー・ソングライター、ルーシー・シルヴァズが2018年のアルバム『E.G.O.』で発表した作品のカヴァーで。あとは、アダムさんがノルウェー在住のアメリカ人仲間とか、現地のミュージシャン/ソングライターたちと組んで、あるいは単独で書いた曲。
とはいえ、全部が内省的な自己確認ソングというわけでもなく。たとえばオープニング・チューン「ジョイアス・ウィール・ビー」など、現地のアメリカ人仲間、ジェフ・ワッサーマンと組んで、彼らの母国で起こっている現在進行形の政治的状況に切り込んだ1曲。反トランプというか、反“反知性主義”というか。分断から団結への希望を託した歌詞を、16ビートでうねるメンフィス調のリズム・セクション、ゴスペル・クワイア、ホーン・セクション、アダム・ダグラス自身による粘っこいスワンプ・ロック調のスライド・ギターなど、多彩な米ルーツ・ミュージックの要素でバックアップしてみせる。かっこいい。
と思うと、続く「イントゥ・マイ・ライフ」という曲では、コリー・チゼルとの共作のも下、年齢を重ねて40代へと足を踏み入れ、これまでとはまたひと味違う不安や憂鬱と対峙しなければならない心象を、ちょっと胸キュン系の洗練されたコード進行をともなったライト・ソウル・サウンドで綴ったりしていて。揺れる中年期の入口という感じかな。
そんな感じの曲がずらっとラストまで11曲。当初はアメリカに帰国して本ソロ作をレコーディングする計画だったらしい。が、パンデミックのせいで計画はお流れに。結局、ノルウェーのオスロでアルバム制作することになった。ハイ・レッドの他のメンバーは参加していないみたいだけど、現地の腕ききがずらり勢揃い。ソウル、ロックンロール、ブルース、カントリー、ジャズなど米国音楽の要素を的確に消化したプレイでがっちりバックアップしてみせた。
これが結果オーライ。異国に身を置いているからこそ、自ら設定したテーマにより有機的にフォーカスすることができたルーツ探訪盤が仕上がった。この確認作業を経て、さて、ハイ・レッドとしての活動も含めたアダム・ダグラスの次章はどうなっていくのか。楽しみです。今のところフィジカルは見かけていないけど、やっぱり盤で、それもアナログで欲しい1枚だな。