Disc Review

Beach Boys Deluxe (2020 UHQCD/MQA reissue) / The Beach Boys (Universal Music Japan)

ビーチ・ボーイズ・デラックス/ビーチ・ボーイズ

今年の9月ごろ、こちらのエントリーでも書いたことの繰り返しになるのだけれど。

ぼくが本格的にビーチ・ボーイズの魅力にハマったのは1969年。ぼくが中学生だったときのことで。テレビの若者向け情報番組でかかった「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」の初期ビデオクリップみたいなやつを見て一気にハマった。

で、まずは「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」のシングルを買って。ほどなくその曲が収録されているアルバム『20/20』も手に入れた。ぼくにとって記念すべき初ビーチ・ボーイズ・アルバムだった。

買った当初はまだ誰が誰やら、メンバーの顔もわからなかったため気にもならなかったものの。実はシングル「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」もアルバム『20/20』も、ジャケット表の写真に中心メンバー、ブライアン・ウィルソンの姿がない。ブライアン抜きのメンバー5人だけしか映っていなかった。

輸入盤ならば、アルバムのダブル・ジャケットの内側に視力検査表(アルバム・タイトルである“20/20”、つまり視力両眼1.0にひっかけたもの)とともに映るブライアンのモノクロ写真が掲載されていたのだけれど。ぼくが当時手に入れた国内盤のジャケット内側には、その写真をカットして、代わりに日本語ライナーの文字だけが載っていた。ビーチ・ボーイズのアルバムなのにブライアンの近影なし。扱いがとんでもなく雑だった。

仕方ない。そういう時代だった。1969年ごろのビーチ・ボーイズの扱われ方って、日本に限らず、まじひどかったのだ。人気もどん底。学校でビーチ・ボーイズのことを話題にしている友達なんか、ひとりもいなかった。後で知ったことだけれど、この時期、ブライアンはメンタル的にもフィジカル的にも最悪で。所属するキャピトル・レコードとの訴訟問題も泥沼化。契約も思うようにいかず、もめまくっていたらしい。

なもんで、『20/20』に感動したぼくが、時代を遡りながら旧譜を手に入れようと思っても、キャピトルが意図的に初期の作品群を廃盤にしていたためか、何も買えなかった。当時買えた他のオリジナル・アルバムは1枚前の『フレンズ』のみ。輸入盤もまだ気楽に入手できる時代ではなかったし。しょうがないから、あとは1967年に日本で独自に編纂された『ビーチ・ボーイズ・デラックス』なる14曲入りベストLPでなんとか初期の音源を楽しむしかなかった。

いやー、『ビーチ・ボーイズ・デラックス』。ほんと、ものすごくお世話になったなぁ。もちろん今も大事にとってあって。もう針を落とすことはないけれど、アナログ・レコード棚の、すぐわかる、いちばんいい場所に置いてある。

当時はどんな洋楽アーティストでも日本で独自にベスト盤とかを勝手に作ることが簡単にできた。ビートルズにせよ、ボブ・ディランにせよ、エルヴィス・プレスリーにせよ、ベンチャーズにせよ、日本独自のベスト盤というのがたくさんあった。ビーチ・ボーイズの場合も、1965年にまず『ザ・ベスト・オブ・ビーチ・ボーイズ』というのが編纂されて、同じく1965年、折からのエレキ・ブームに便乗してビーチ・ボーイズのインスト曲ばかり集めた『サーフ・ジャム』ってのが出て、翌1966年に『ベスト・オブ・ビーチ・ボーイズNo.2』というのが出て…。

ぼくがお世話になった『ビーチ・ボーイズ・デラックス』はそのさらに翌年に出たものだった。“ベスト・オブ…”シリーズの続編という形ではなく、ここでもう一回キャリア全般を視野に入れて、一から選曲し直されていた。ありがたかった。おかげで、ぼくはこのベスト盤で「サーフィンUSA」「サーファー・ガール」「ファン・ファン・ファン」「アイ・ゲット・アラウンド」「ウェンディ」「カリフォルニア・ガール」「ゴッド・オンリー・ノウズ」「グッド・ヴァイブレーション」など代表曲を聞きまくることができたのでした。ああ、懐かしい。

そんな懐かしの日本独自編集によるビーチ・ボーイズのベスト盤群が、なんと本日、12月23日、何度かの発売延期を経て、めでたく再発されたのでありました! すごい。もちろんこれまた日本独自の完全限定企画。しかも、日本オリジナル・アナログ・テープをもとにした2020年DSDマスターを352.8kHz/24bitに変換して収録したハイレゾCD(MQA-CD+UHQCD)仕様。さらに日本初回盤LPのジャケットを完全再現した帯付き紙ジャケット。やばすぎる。

出たのは先述した『ザ・ベスト・オブ・ビーチ・ボーイズ』(1965年)、『サーフ・ジャム』(1965年)、『ベスト・オブ・ビーチ・ボーイズNo.2』(1966年)、かつてぼくが聞きまくった『ビーチ・ボーイズ・デラックス』(1967年)、そしてこの“デラックス”シリーズの続編『ビーチ・ボーイズ・デラックス 第2集』(1968年)という5作。

ぼくのような世代の日本人ビーチ・ボーイズ・ファンのノスタルジアをくすぐる以外にどういう効能がある再発なのか、よくわかりませんが(笑)。少なくとも、そういうファンであるぼくはこの上なくうれしい。ビーチ・ボーイズ関連の、これぞというリリースもすっかり途絶えた昨今だけに、余計に盛り上がる。

加えて、来年1月になると、こちらは日本編集ではないけれど、1969~80年の音源で構成された2枚組ベスト『テン・イヤーズ・オブ・ハーモニー』(1981年)も出る。

実は今回、すべてのライナーを書かせていただいて。ものすごく光栄だったのだけれど。特に思い入れの深い『ビーチ・ボーイズ・デラックス』のライナーを書けたことがうれしくて。中学生時代の自分に思いきり自慢したいですよ。50年の歳月を経ての個人的ひとめぐり。泣けてきます。

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