Disc Review

Work to Do / Marc Cohn & Blind Boys of Alabama (BMG)

ワーク・トゥ・ドゥ/マーク・コーン&ブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマ

昨日に引き続き、エルヴィス・プレスリー絡みというか。

1991年にヒットしたマーク・コーンの「ウォーキング・イン・メンフィス」って曲が大好きで。以前、バリー・マンにインタビューしたとき、彼もこの曲が大好きだと語っていて、なんだか自分のことのようにうれしかったものだ。曲もいいし、マーク・コーンの歌声もいいし、でも、なんと言っても歌詞。タイトル通り、デルタ・ブルースの聖地メンフィスを訪れたときの思いを綴ったものだけれど、その地に暮らしていたエルヴィスについても触れていて。2番の歌詞――。

ユニオン・アヴェニューでエルヴィスの幽霊に出会った/彼の後を追ってグレイスランドの門へ/彼は門をくぐり抜けた/守衛たちには彼が見えなかった/彼らは墓石の周りをうろつくばかり/でも、キングを待っているいかしたものは/ジャングル・ルームにこそあるんだ

ここがもう必殺。しびれた。

説明は不要だと思うけれど、グレイスランドというのはエルヴィスが住んでいた豪邸のこと。ジャングル・ルームというのはそのお屋敷内の部屋のひとつで、エルヴィスにとって最後の“非ライヴ”レコーディング・セッションが行なわれた場所でもある。こいつ、わかってるじゃん、と。偉そうにも(笑)、「ウォーキング・イン・メンフィス」を聞いたときそう思って。この曲を含むファースト・アルバム以降もマーク・コーンの新作は出るたびに追いかけ続けてきた。追いかけ続けてきてよかった。そう思わせてくれる最新作が登場した。

マーク・コーンは2016年、ジョン・レヴェンサルがプロデュースしたウィリアム・ベルのアルバム『ジス・イズ・ホエア・アイ・リヴ』に5曲提供。それをきっかけに、ウィリアム・ベルと同じマネージメントのもとで活動していた超ベテラン・ゴスペル・グループ、ブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマからも新曲を依頼されて。

その流れで完成したのが、やはりレヴェンサルのプロデュースによるブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマ、2017年の傑作アルバム『オールモスト・ホーム』だったのだけれど。そのアルバムにコーンは3曲を提供。そこでの作業を通じて一気に意気投合したコーンとブラインド・ボーイズはともに連れだってコンサート・ツアーなども行なうように。

で、1年以上、各地で共演コンサートを続けたのち、今年の5月、米PBSを通じて放映されている人気番組『ザ・ケイト』に出演。その成果を披露してみせた。『ザ・ケイト』は意識的/意欲的なミュージシャンのパフォーマンスを堪能できるプログラムで、現在シーズン4。ネットを通じて日本からも見ることができるのだけれど。そのライヴの模様も含むニュー・アルバムが今回ご紹介する『ワーク・トゥ・ドゥ』だ。

PBSのホームページで公開されている『ザ・ケイト』の映像を見ると、番組ではランドール・ブラムレットがブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマのために書き下ろした「オールモスト・ホーム」が冒頭で歌われる形でスタート。ブラムレット自身がピアノを弾いていたりして、実にしびれる仕上がりなのだけれど。こちらは“マーク・コーン&ブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマ”名義の盤だけに、さすがにその音源は収録されていない。

その代わり、映像にはない3曲のスタジオ録音ヴァージョンが冒頭に入っている。ひとつはゴールデン・ゲイト・カルテットなどでおなじみの「ウォーキング・イン・エルサレム」。「…イン・メンフィス」とは関係ないゴスペル・スタンダードだけれど、まずこれをブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマ主導で歌って。続いてマーク・コーンの書き下ろしによる新曲が2曲。これがどちらも素晴らしい。もともとはこのスタジオ録音3曲を中心にEPをリリースしようという計画だったそうだ。

けど、番組のほうのスタジオ・ライヴの出来がよすぎたこともあって、結局、ライヴ7曲を加えたフル・アルバム形式でのリリースとあいなった。というわけで、トラック4以降が番組の模様だ。「朝日のあたる家」のメロディで歌われる必殺の「アメイジング・グレイス」はブラインド・ボーイズ単独でのパフォーマンス。あとはすべてマーク・コーンの旧作からのナンバーのリメイクになっている。

コーンはポール・サイモンとディクシー・ハミングバードが共演した「ラヴズ・ミー・ライク・ア・ロック」とか「テンダネス」が好きだったようで、あの辺をお手本に、自らの作風と重厚なゴスペル・コーラスとを無理なく、多彩な形で合体させてみせる。普通にリード+バック・コーラスという形式になっている曲のほうが少ない。必要に応じてリード・ヴォーカル・パートを効果的に分かち合いつつ、見事なアンサンブルを聞かせる。

まずは「ウォーキング・イン・メンフィス」と同じファースト・アルバムの収録曲だった「ゴースト・トレイン」。もともと“トレイン”という語がなかなかにゴスペル的だからかもしれないが、コーンとブラインド・ボーイズとの共演で歌われるべき運命の曲だったんじゃないかという気すらする。ぼくのつたない英語力による歌詞解釈によると、たぶん幼いころに失った母親への思いが綴られた1曲で、もちろんスタジオ・ヴァージョンもじわーっとしみる仕上がりではあった。

が、本作でのブラインド・ボーイズとのヴァージョン、“But she’s riding on the train”という歌詞の部分から彼らの重厚なコーラスが切り込んできた瞬間、もう鳥肌ものだ。“そのとき空が割れた/雨が降り出した/地上のすべてを洗い流した…”という歌詞の部分など、スタジオ・ヴァージョンとはまた違う、ぐっと荘厳な手触りを持って聞き手に迫ってくる。やばい。

もちろん、「ウォーキング・イン・メンフィス」も素晴らしい。これ、決定版的ヴァージョンじゃないかな。あらかじめこの曲がはらんでいたスピリチュアルな感触がブラインド・ボーイズとの共演によって、ついに確かなものになったという感じ。

すでに触れた曲も含めて初出アルバムをメモしておくと、「ウォーキング・イン・メンフィス」「ゴースト・トレイン」「シルヴァー・サンダーバード」が1991年のファースト・アルバム『マーク・コーン』から。「ベイビー・キング」が1993年の『ザ・レイニー・シーズン』。「ワン・セイフ・プレイス」が2005年の『ライヴ04*05』。そして亡きリヴォン・ヘルムの歌声をかつて初めて聞いたときの衝撃を切なく綴った名曲「リスニング・トゥ・リヴォン」が2007年の『ジョイン・ザ・パレード』。

どの曲も新たな魅力とともによみがえってくる。恐るべしブラインド・ボーイズ・オヴ・アラバマ。

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