Disc Review

The Road I'm On: A Retrospective / Dion (Columbia/Legacy)

ザ・ロード・アイム・オン:ア・レトロスペクティヴ/ディオン

R&Bにストリート・コーナー・ドゥワップとハンク・ウィリアムスの味をミックスして、イタリア系アメリカ人があふれる地区独特のフィルターで瀘したもの。それがディオンの言う“ブロンクス・ブルース”だ。

1962年、彼は4年在籍したローリー・レコードを離れてCBSコロムビアと契約。ブロンクス・ブルースをマンハッタンへと持ち込んだわけだが。本2枚組CDはその時期の素晴らしいコンピレーション。62年に全米チャートをにぎわしたザ・ドリフターズのカヴァー曲「Ruby Baby」とか、キャロル・キング&ジェリー・ゴフィン作のグルーヴィな名曲「This Little Girl」とか、自作の大ヒット「Donna The Prima Donna」とか、独自のドライヴ感をたたえたホワイト・ドゥワップから、伝説のA&Rマン、ジョン・ハモンドを通して出会った黒人ブルース音楽を自分なりに消化した「Spoonful」「Baby Please Don't Go」のようなナンバーとか、同じくジョン・ハモンドが見いだしたボブ・ディランに触発されたフォーク寄りの「The Road I'm On」や「It's All Over Now Baby Blue」とか。

62年から66年までの4年間で彼が自らのブロンクス・ブルースをどんなふうに成長させていったかを駆け足でたどることができる。この試行錯誤がやがて1968年のフォーク・ブルース的なヒット「エイブラハム、マーティン&ジョン」へとつながっていくことになるわけだ。ビートルズが全世界を席巻し、誰もが浮き足立って新時代のサウンドに色目を使っていた60年代半ば、しかしディオンはそういう時代だからこそもう一度自らのルーツであるブルースやフォークを見つめ直していたわけだね。男だね。だから、彼は60年代半ばになっていったんヒットチャート上からは姿を消してしまうのだけれど、音楽そのものの力はぐんぐん高まっていた。そんなことをこの2枚組で再確認できる。

全35曲入り。91年に1枚もので出たアンソロジー『Bronx Blues』をよりグレードアップさせた決定版だ。うち9曲が未発表ヴァージョン。「Donna The Prima Donna」のイタリア語ヴァージョンとか「Ruby Baby」の別ヴァージョンとか、興味深い音源が収録されている。そして、いちばんうれしいのが96年に制作された新録音2曲。

ディオンぐらいのビッグ・アーティストになると、年に4回程度、ナツメロ・ショーをやれば十分に食っていけるらしいんだけど。この人、何を思ったか、確か去年、いきなり若いミュージシャンと組んでニュー・バンドを結成したのだ。でもって、古いレパートリーを全部捨てて、新曲だけで勝負するとか宣言して。

この人、1939年生まれだから、今年で58歳。それでニュー・バンドだもんなぁ。いつまでもロックンロールし続けようというパワーには心底アタマが下がる。で、この新録がまたいいんだ。今なおドライヴ感ばっちり。

のちのラスカルズを生み出す土壌を作ったイタロ・アメリカン・ロックンロールの元祖として、絶対に体験しておいてほしいコンピレーションです。

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