
ウィ・ガッタ・グルーヴ:ブラザー・スタジオ・イヤーズ/ビーチ・ボーイズ
本ブログでもこれまで何度か書かせていただいてきたことなのだけれど。ぼくがビーチ・ボーイズにどハマりしたのは1969年のことで。ぼくが中学生だったころ。TBSで朝放送されていた若者向け情報番組『ヤング720』でかかった「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」のビデオクリップみたいなやつを見て、うわーっ、最高! と盛り上がって。
さっそく「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」のシングルを買って。ほどなくその曲が収録されているアルバム『20/20』も手に入れて。
買った当初はまだ誰が誰やら、メンバーの顔もわからなかったため気にもならなかったものの。実はシングル「アイ・キャン・ヒア・ミュージック」もアルバム『20/20』も、ジャケット表の写真に中心メンバー、ブライアン・ウィルソンの姿がない。ブライアン抜きのメンバー5人だけしか映っていなかった。
輸入盤ならば、アルバムのダブル・ジャケットの内側に視力検査表(アルバム・タイトルである“20/20”、つまり視力両眼1.0にひっかけたもの)とともに映るブライアンのモノクロ写真が掲載されていたのだけれど。ぼくが当時手に入れた国内盤のジャケット内側には、その写真をカットして、代わりに日本語ライナーの文字だけが載っていた。
仕方ない。1969年ごろのビーチ・ボーイズの扱われ方って、日本に限らず、まじひどかったのだから。人気もどん底。学校でビーチ・ボーイズのことを話題にしている友達なんか、ひとりもいなかった。後で知ったことだけれど、この時期、ブライアンはメンタル的にもフィジカル的にも最悪。所属するキャピトル・レコードとの訴訟問題も泥沼化…。
要するにぼくはあろうことか最悪の状況下、ブライアン不在だった時期にビーチ・ボーイズのファンになってしまったのでありました。まあ、不在、といっても、もちろんそれなりの割合でビーチ・ボーイズのアルバム群にブライアン作品も含まれてはいたのだけれど。とはいえ、ぼくがリアルタイムで味わうことができなかった1960年代半ばまでのような形でビーチ・ボーイズを牽引する若き天才、ブライアン・ウィルソンの姿はそこにはなく…。
このあたりのことは先述した通り本ブログでもいろいろ書いてきたし。かつて『50年目の『スマイル』――ぼくはビーチ・ボーイズが大好き』という本にも詳しく書かせてもらったので、ご興味あるようでしたらそちらをぜひご参照いただきたいのですが。
そういう世代のビーチ・ボーイズ・ファンだったもんで。ブライアンの本格復帰プロジェクトが始動した1976年、ちょうど50年前のことは忘れられない。うれしかった。今となってはこの復帰劇がまだまだ時期尚早だったことをファンならば誰もが知ってはいるけれど。でも、“ブライアン・イズ・バック”というキャッチコピーには、まじ心が躍ったものだ。
そんな時期、ビーチ・ボーイズはオールディーズのカヴァーも多数含む1976年の『15ビッグ・ワンズ』、1966年の『ペット・サウンズ』以来久々にブライアンが全曲の作曲/プロデュースを手がけた1977年の『ビーチ・ボーイズ・ラヴ・ユー』、そして未発表に終わった『アダルト・チャイルド』というアルバム3作をレコーディングしていて。その時期の試行錯誤をひとまとめにしたボックスセットが出た。それが『ウィ・ガッタ・グルーヴ:ブラザー・スタジオ・イヤーズ』だ。
このCD3枚組ボックスに関する記事は『レコード・コレクターズ』の最新3月号に寄せているので、ぜひそちらをチェックしてみてください。第一特集がブラック・サバス/オジー・オズボーンなので、ちょっと取り合わせ的にどうかなとも思いますが(笑)。よろしければ。
ざっくり内容をおさらいすると。CD1が『ビーチ・ボーイズ・ラヴ・ユー』全14曲の77年オリジナル・ミックスの最新リマスター音源と、76年10月から77年1月にかけてのセッションからのアウトテイク集。CD2が未発表に終わった『アダルト・チャイルド』のための音源もろもろと、当時のレア・テイク集。CD3が『15ビッグ・ワンズ』セッションからのアウトテイクや、新ミックス、バックトラック、およびブライアンが自宅で録音したきわめてプライヴェートなデモ音源集。
レアものがむちゃくちゃ興味深くて。つい意識がそっちに向かうけれど、『…ラヴ・ユー』だって当時たいして売れなかったわけで。ブライアンの復帰作として大々的にプロモートされ全米8位に達した『15ビッグ・ワンズ』に比べると、こちらは最高全米53位どまり。これ自体レアものっちゃレアものだ。そんなことも含め、この3枚組は『…ラヴ・ユー』再評価のためのコレクションと捉えるべきものだと思う。
ソロ・アーティストとしてのブライアンの持ち味が、かつての『ペット・サウンズ』のような奥行きのある豊饒なサウンドではなく、アープ、オーバーハイム、モーグといったアナログ・シンセを多用した斬新なポップ・サウンドとともに再び開花した傑作。こちらこそが本当にブライアンが“バック”した1枚だった。昨年からアル・ジャーディンがかつてのブライアン・ウィルソン・バンドのメンバーも含む“ペット・サウンズ・バンド”を引き連れて『…ラヴ・ユー』の収録曲をライヴで再現するツアーで好評を博しているが、なるほど、むしろ今の時代の耳で接したほうが真価がわかるアルバムなのかも。
サンタモニカ5番街1454に位置するブラザー・スタジオを拠点に、スタジオの設計/運営者であるスティーヴン・モフィットをはじめ、元スパークスのアール・マンキーと、やがてニール・ヤングとタッグを組むことになるジョン・ハンロンら気鋭のエンジニアたちがブライアンの奇抜なアイディアを形にするために奔走。
個人的にはアナログLPで言うところのB面7曲を、当時とにかく聞きまくった。宇宙に関する興味を綴った「ソーラー・システム」、許されぬ恋を題材にした「ザ・ナイト・ワズ・ソー・ヤング」、当時の妻マリリンをデュエット・パートナーに迎えブライアンが彼女への深い愛を感情むきだしで綴った「レッツ・プット・アワ・ハーツ・トゥゲザー」…。リード・ヴォーカルは他のメンバーと分け合ってはいたけれど、、このB面7曲は優れたシンガー・ソングライターとしてのブライアン復活を存分に思い知らせてくれたものだ。
CD3枚組仕様での一般発売は日本のみ。海外ではこのCD3枚に、だいぶ曲数を省いたLP3枚を組み合わせた限定セットのみのリリース。こちらは一時ソールドアウトしていたけど、リプレスされたみたい。ぼくは海外サイトで買ったけど、まだ届きません…。

Beach Boys/We Gotta Groove: The Brother Studio Years (Exclusive Super Deluxe 3lp + 3cd)
ゲットするならお早めに。
2月20日のCRT「SMiLEの日」でもこのボックス、堪能しましょう。楽しみ!



