Disc Review

Odessey and Oracle (Mono Remastered) / The Zombies (Beechwood Park Records)

オデッセイ・アンド・オラクル(モノ・リマスター)/ザ・ゾンビーズ

ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』とか、ボブ・ディランの『スロー・トレイン・カミング』とか、ラヴの『フォーエヴァー・チェンジズ』とか、ロックンロール・ヒストリーを振り返ってみると、発表当初は賛否が渦巻き正当に評価されずじまいだったものの、やがて歳月の経過とともに少しずつ真価がシーンに浸透、結果、そのアーティストの代表作のひとつに数えられるようになった"再評価系"の名盤が少なからずある。

ゾンビーズの『オデッセイ・アンド・オラクル』もそんな1枚。だいぶ前、再結成ゾンビーズによる全曲再現ライヴ盤とか紹介したこともあったけど。

デビュー時のデッカ/パロットを離れCBSと契約した移籍第1弾として1967年の6月から11月にかけて制作されたセカンド・アルバムだ。必殺のハスキー・ヴォイスを持つリード・シンガー、コリン・ブランストーンと、優れたソングライターでもあったキーボードのロッド・アージェントとベースのクリス・ホワイトを中心に、従来のゾンビーズ・サウンドをよりジャジーにセンス・アップ。当時最先端だった4トラック・マルチ・レコーダーを導入し、いち早くメロトロンなども音作りに利用した意欲作だった。

にもかかわらず、レコーディングが進むにつれてメンバー間の人間関係が悪化。結果、アルバム完成後、ほどなくゾンビーズは突然解散してしまうことになる。そのせいで本作も当初はお蔵入り寸前まで追い込まれたらしい。が、当時CBSのスタッフ・プロデューサーを務めていたアル・クーパーの進言で、翌68年、CBS傘下のデイト・レコードからなんとか発売にこぎつけて。収録曲のひとつ「ふたりのシーズン(Time of the Season)」をシングル・カットしたところ、これが69年になってから全米3位まで上昇する大ヒットを記録。

日本でも大当たりしたなぁ。ぼくが中学1年のときだったか、2年になっていたか…。とにかくAMラジオの洋楽番組ではこぞってこの曲がかかりまくっていたものだ。懐かしい。シングル盤を買って持っていたもんで、クラスの女の子から貸して貸してと、そのときだけ大モテだったっけ(笑)。お小遣いも限られていたのでそのころアルバムまでは買えなかったけれど、シングルB面に収められていた「フレンズ・オヴ・マイン」も含めて繰り返し繰り返し聞きまくりました。

ただ、その段階ですでにゾンビーズは解散。存在していなかったわけで。そんなこともまた、この曲を含む傑作アルバム『オデッセイ・アンド・オラクル』の正当な評価を遅らせる大きな要因になってしまったのかも。

でも、その後、時代が進むにつれて真価がシーンに広く浸透。今ではあちこちのロック名盤選に必ずランクインする評価を勝ち得ている。サイケデリックな味と、サンシャイン・ポップ的な味と、バロック・ポップ的な味と、ジャジーな味と…。様々な要素が奔放に、刺激的に交錯するそのマジカルな音世界はまさにワン・アンド・オンリー。ロッド・アージェントとクリス・ホワイトという二人の優れたソングライターの才能が爆発している感じの大傑作だ。

で、まあ、そんな名盤だけに、これまでにも何度も再発されてきたわけだけれど。今回、そのモノ・オリジナル・ミックスの最新リマスター盤が出た。これが最高なのだ。もともとこのアルバム、制作の中心を担っていたアージェントとホワイトは、時間も予算も使い果たしてしまっていたこともあり、モノラル・ミックスのみを作り上げてCBSに納品したらしい。が、CBSはステレオ・ミックスも要請。仕方なくアージェントたちは自費でステレオ・ミックスも急造。

とはいえ、「今日からスタート(This Will Be Our Year)」のホーン・セクションなどはモノラル・ミックス時に直接ダビングされたものだったため、同じテイクのステレオ・ヴァージョンを作ることもできず。本アルバムのステレオ盤はモノ・ステレオ混在の中途半端な1枚に仕上がってしまっていた。

そういう意味でも本作はモノラルで聞くのがアージェントたちの意図をまっすぐ味わう最良の方法なわけで。今回のモノラル・リマスター、最高の企画かも。とにかくオープニングを飾る「独房44(Care of Cell 44)」から「エミリーにバラを(A Rose for Emily)」から、エンディングの「フレンズ・オヴ・マイン」「ふたりのシーズン」まで、名曲ぞろいの本アルバムを、彼らが当初イメージした通りのモノラル音像で楽しむ絶好の機会です。去年、発売55周年記念ってことで新たなステレオ・リミックスも世に出たけれど、それと併せて揃えておきたい1枚かな。

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