Disc Review

One Hour Mama: The Blues of Victoria Spivey / Maria Muldaur (Nola Blue Records)

ワン・アワー・ママ:ザ・ブルース・オヴ・ヴィクトリア・スピヴィー/マリア・マルダー

“スパイヴィー”なの? “スピヴィー”なの? という問題はずっとあって(笑)。

今回このアルバムを紹介するにあたって、改めていろいろYouTubeとかでチェックしてみたら。1960年代にロニー・ジョンソンとドイツで共演している映像があって。そこでロニーさんが“ヴィクトリア・スピヴィー”って紹介しながらヴィクトリアさんをステージに招き入れていた。

だから、もう間違いなく“スピヴィー”なんだろうなと思う。ヴィクトリアさんも1920年代の録音で自分でも“スピヴィー”って発音していた覚えもあるし…。

けど、マリア・マルダーは最新のラジオ・インタビューで“スパイヴィー”って発音していて。マリアさんも1960年代からヴィクトリアさん本人と交流があったわけだから、こっちもそれなりに信憑性があるというか…。どっちだ? 困るなぁ。

でも、まあ、ここはロニー・ジョンソン先輩のほうを信じて“スピヴィー”でいきます。ヴィクトリア・スピヴィー。1920年代から活躍して、1950年代アタマにいったん引退したものの、1960年代、またまた復活を果たした偉大な女性ブルース・シンガー。ボブ・ディランの名前が初めてクレジットされたレコーディングを一緒にやって、そのときの写真がアルバム『新しい夜明け(New Morning)』の裏ジャケットになっていることでもおなじみのヴィクトリアさん。

マリア・マルダーにとっても大切なメンター的存在だそうで。満を持して、そんなメンターのレパートリーに挑んだ新作アルバムをリリースしてくれました。

マリア・マルダー自身が書いたライナーによれば、ヴィクトリアさんは、1960年代初頭、シンガーを目指して試行錯誤していた若きマリアさんにいろいろ助言したり、指導したり、育ててくれたのだとか。

“ヴィクトリアは野心的で、粘り強く、生意気で、勇ましく、大胆で、セクシュアリティを恥じらいなく表現し、多才で、ブルースにとどまらず当時のポップスやノヴェルティ・ソングも歌い、作曲し、踊り、ピアノなど楽器も演奏し、映画や舞台に出演し、さらに起業家としても自らブルース・ニュース・レターを発行し、自身のレコード・レーベル「スピヴィー・レコード」を立ち上げ、ベラテン・ブルース・ミュージシャンだけでなく、これから羽ばたこうとしている新人(私やボブ・ディランや、他の多くの若者たち)にもレコーディングの機会を与えてくれました。(中略)このアルバムはヴィクトリア・スピヴィーがブルースに与えた貢献と、私の音楽の旅に与えた大きな影響への愛を込めたトリビュートです。お楽しみください!”

とのこと。まさにその通りの仕上がりの1枚。

ヴィクトリア・スピヴィー名義で出ていたレパートリーはもちろん、ロニー・ジョンソンやキング・オリヴァーなど、ヴィクトリアさんがシンガーとして参加した他のアーティスト名義のレパートリーなども取り混ぜた選曲で。有名どころから超マニアックなところまで、見事なセレクション。

といっても、全部が新録というわけではなく。ミシガン州アナーバーでジェイムス・ダポグニーズ・シカゴ・ジャズ・バンドとレコーディングした曲たち(「マイ・ハンディ・マン」「ワン・アワー・ママ」「TBブルース」)は2007年の『ノーティ・ボウディ&ブルー』の収録曲に最新リマスターをほどこしたうえでの再録。

チューバ・スキニーとニューオーリンズでレコーディングしたもの(「オルガン・グラインダー・ブルース」「ファニー・フェザーズ」)は前作『レッツ・ゲット・ハッピー・トゥゲザー』のセッションからのものかも。

で、その他、残る7曲がカリフォルニア州バークレーでのレコーディング。この辺が新録なのかな。ロニー・ジョンソンの「ホワット・メイクス・ユー・アクト・ライク・ザット?」にはエルヴィン・ビショップが、オリジナルではヴィクトリアさんがポーター・グレインジャーとデュエットしていた「ユーヴ・ガッタ・ハヴ・ホワット・イット・テイクス」にはタジ・マハールが、それぞれデュエット・パートナーとして客演してます。

マリア・マルダーもすでに82歳。そんな年齢が信じられない力強さと、そんな年齢ならではの深みとを併せ持つ、ヴィクトリア・スピヴィーにもけっして引けを取らないリジェンドに成長しているんだな、という事実を改めて思い知らせてくれるうれしい1枚です。こうして伝統という宝が受け継がれていくのだな。

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