Disc Review

Brothers In Arms (40th Anniversary) / Dire Straits (Mercury Records)

ブラザーズ・イン・アームス【40周年記念3CDデラックス・エディション】/ダイアー・ストレイツ

「マネー・フォー・ナッシング」のビデオクリップ。当時としては破格の3Dコンピューター・アニメーションを駆使したビデオで。まじ、よく見たなぁ。『ベスト・ヒットUSA』で。

スティングが「高校教師」のメロディで歌う“I want my MTV”ってフレーズでスタートするダイアー・ストレイツの「マネー・フォー・ナッシング」。地道に働くおっさんのアニメとMTVのスターたちとを交錯させつつ、バブル時代の消費/羨望/軽蔑みたいなテーマを描いていたわけですが。

まあ、要するにアンチMTVソングで。でも、それがMTVとか、その日本版とも言うべき『ベスト・ヒットUSA』でがんがん流れていたという皮肉。TikTokが孕む問題点をあれこれ指摘しつつ、でも、それをけっこう満喫したりもしている今の時代の感じに近いのかも。

あのビデオ、個人的には、思わせぶりなイントロが終わったところで、ギターを弾くマーク・ノップラーの右手が大写しになって、ZZトップを意識したという例のハード・ブキ調のリフを親指、人差し指、中指で指弾きするシーンが大好き。張り切って真似したものです。

1985年の作品だけに、デジタル技術がどどーっとレコーディング・スタジオに押し寄せていて。いかにもエイティーズ・デジタル・レコーディング! って音になっていて。今となってはなんとも微妙ではあるのだけれど。当時はむしろその感触がかっこよく。

ノップラーとニール・ドーフスマンの共同プロデュースの下、モントセラト島エアー・スタジオで当時再先端だった24トラックのデジタル・レコーダーを駆使して録音されていて。曲によってはギター・シンセも導入されていたっけ。驚いた。

LPに代わってCDが音楽再生メディアのメインの座につき始めた時期でもあり。この曲を収めたダイアー・ストレイツ5作目のスタジオ・アルバム『ブラザーズ・イン・アームズ』の場合、CDだとより長時間収録できるってことで収録曲中4曲がLPよりも長いヴァージョンになっていた。となると当然、LPではなくCD買わなくちゃってことになって。多くのファンがCDを選択。当時CDの売り上げだけでミリオンを突破した世界初の作品だったような…。

いろいろな意味合いで、アナログからデジタルへという時代の流れを象徴する1枚だったなぁ。メンバーが落ち着かなかった時期でもあり、ドラムのテリー・ウィリアムスがレコーディングの途中で脱退しちゃって、「マネー・フォー・ナッシング」のイントロのドラム・フィル以外、全曲をオマー・ハキムが差し替えちゃっていたり…。この後、5年くらいブランクを置いてラスト・アルバムをリリースして解散することになるダイアー・ストレイツの、ある種の到達点的な1枚だったかも。

あれから40年。またアナログの存在感が少しずつ盛り返しつつある時代になって、デジタル時代の本格到来を象徴していた『ブラザーズ・イン・アームズ』の40周年記念エディションが出ました。

1LP版、5LP版、オリジナルLPと同じマスターを使って4曲がショート・ヴァージョンになっているSACD版など様々なフォーマットで出ましたが。メイン商品は3CDものみたい。ディスク1にオリジナル・アルバムの、4曲がロング・ヴァージョンになっているCD版を収め、ディスク2と3に1985年のワールド・ツアーからサンアントニオ公演で録音された未発表ライヴ音源を完全収録。

ディスク1はボーナスいっさいなし。デモもアウトテイクも追加されておらず、なんだかボーナス奮発が普通になってしまった今の時代、ちょっと食い足りない感じもありますが。ディスク2と3のライヴが強力なので。全盛期の新たなライヴ盤として楽しむのがいいかも。『ブラザーズ…』のひとつ前に出たライヴ・アルバム『アルケミィ〜ダイアー・ストレイツ・ライヴ』でも話題になった「悲しきサルタン(Sultans of Swing)」の長尺10分超ヴァージョンでのノップラーの弾きまくりも、こちらではさらに加速しております。

ノップラー、キーボードのガイ・フレッチャー、ベースのジョン・イルズリーへのインタビューも含むポール・セクストン書き下ろしのライナーノーツが掲載された16ページ・ブックレットもファンにはうれしい。

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