Disc Review

Anything at All / Denison Witmer (Asthmatic Kitty Records)

エニシング・アット・オール/デニソン・ウィットマー

デニソン・ウィットマー、5年ぶりの新作アルバム。去年の秋に先行リリースされた「オールダー・アンド・フリー」をフィーチャーした1枚です。

長年の友、スフィアン・スティーヴンスがプロデュース。曲によってはいい感じに歌声を寄り添わせていたり、素晴らしいコーラスを提供していたり、ストリングスや木管アンサンブルをさりげなくあしらっていたり。スフィアンのサポートの下、子育てと大工仕事と植物いじりと音楽とを自然体で両立させるウィットマーの世界観が帰ってきた。

あの名盤『アー・ユー・ア・ドリーマー?』を出したのが2005年。ぼくはそのときにこの人のことを知ったのだけれど、それからもう20年。デビューのきっかけとなったカセット『マイ・ラック、マイ・ラヴ』を出したのが1995年だから、30年選手。

それだけに去年、「オールダー・アンド・フリー」が発表されたとき、年を重ねないと言えないそのタイトルと、ナチュラルな音像に乗って展開する思慮深い歌詞にぐっときたものですが。

一時音楽を離れて家庭生活に入ったものの、2020年、7年ぶりに素晴らしい新作『アメリカン・フォースクエア』とともにシーンに戻ってきて。その後、スフィアンの申し出で彼のキャッツキル・スタジオでさらなる新作の制作にとりかかったものの、スフィアンが体調を壊したり、パンデミック期に突入して作業が中断してしまったり…。いろいろあってまたまた久々のリリースになってしまったのだとか。

アルバム全体、「オールダー・アンド・フリー」と同じ感触。子供の寝かしつけとか、ベリー摘みとか、バードウォッチングとか、ハイキングとか、何てことのない家庭生活の中に深く崇高な実存的啓示があるということを、つぶやくように、内省的に教えてくれる1枚です。

スフィアンの他、アンディ・パーク、サム・エヴィアン、ハナ・コーエン、ショーン・レイン、キーナン・オメイラらが参加してます。

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