Disc Review

Indoor Safari / Nick Lowe (Yep Roc Records)

インドア・サファリ/ニック・ロウ

日本時間だとおととい、9月11日の朝、バンドキャンプで先行リスニング・パーティが行われたニック・ロウの新作アルバム『インドア・サファリ』。間にシングルとかEPとかライヴ盤とかツアー物販用のコンピとか、あれこれ挟まってはいたものの、オフィシャルに一般発売されるフル・アルバムとしては2013年の『クオリティ・ストリート(Quality Street: A Seasonal Selection for All the Family)』以来だとか。11年ぶりのリリースだ。

2012年に初顔合わせして意気投合、2014年からはがっちりタッグを組んでツアーを続けてきた覆面サーフ・ロックンロール・バンド、ロス・ストレイトジャケッツをバックに従えた1枚で。楽曲的には全12曲中9曲が、ストレイトジャケッツと組んでYep Rocレコードからリリースしてきたシングル/EP、あるいは2001年の『ザ・コンヴィンサー』のボーナス・トラックとして世に出た弾き語りデモなどで既発のもの。

そういう意味では純粋な新作アルバムというより、先述した、ツアーでの物販用に制作された2020年の『ウォークアバウト』みたいな、ある種のコンピレーションに近い感じ? 実際、あのアルバムと収録曲も一部ダブっているし。

ただ、「ラヴ・スターヴェイション」や「トロンボーン」、そして先述したデモ「ディファレント・カインド・オヴ・ブルー」(名曲!)みたいに今回のアルバムに向けて再レコーディングされたものあり。ヴァージョンはそのままでも新たにリミックスされたものもあり…。既発曲が大半とはいえ油断はできない。完成度が大幅にアップ。ニックさんとストレイトジャケッツ、長年ツアーをともにしてきた間柄ならではのコンビネーションもより堅固になった感もあって、なんだかうれしい。

ニック自身、ロス・ストレイトジャケッツとツアーを始めた当初はとにかくライヴをやることだけが目的で、一緒にスタジオ・レコーディングすることなど想定もしていなかったらしい。確かに何枚か共演シングルやEPをリリースしてはきたけれど、それらは“まだ自分のお店が閉店していないことを知らせるためだけのもの”だったとか語っている。ツアー先で空き時間を利用してパパッとレコーディングしたものも多かった、と。

でも、しばらく一緒にツアーをしているうちにニック&ストレイトジャケッツのタッグが評判を呼び始めて。若い観客も集まりだした。でもって——

「それを見て、自分の運命は毎回同じ曲を同じ太っちょの元パブ・ロッカーたちに向かって演奏し続けることではないかもしれない…と気づいたんだ」

とニックさんは笑いながら語るのだった。これ、世代的にもその“太っちょの元パブ・ロッカー”組のほうに分類されちゃいそうなぼくなんかにとってはちょっと複雑な発言ではあるのだけれど(笑)。

でも、これでニックが改めてやる気を出して、おかげで活動に弾みがついたのだとしたら大歓迎。『ジ・インポッシブル・バード』『ディグ・マイ・ムード』『ザ・コンヴィンサー』など、いわゆる“ブレントフォード三部作”のような内省的なクルーナー系アルバムではなく、初期のロックンローラーとしてのニック・ロウを思い出させてくれる仕上がりだ。

ガーネット・ミムズの「ア・クワイエット・プレイス」と、フィル・スペクターがプロデュースしたサミー・ターナーの「レインコート・イン・ザ・リヴァー」の2曲がカヴァーで。あとはもちろんニック・ロウのオリジナル曲。先行シングルとしても公開されていたオープニング・チューン「ウェント・トゥ・ア・パーティ」はストレイトジャケッツとの共作だ。ごきげんなロカビリー「トーキョー・ベイ」をはじめ、既発シングル曲もみんなかっこいい。エンディング、ビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」からのフレーズの引用で終わる新曲「ジェットパック・ブーメラン」あたりはニックさんらしい洒落心に頬が緩む。

もちろん、そうした外向きな感触とは裏腹に、日々の苦悩とか、孤独とか、哀しさとか、失ってしまったものへの思いとかも歌詞には託されていて。さすが現在75歳。ソングライターとしての深みというか、成熟ぶりにもぐっときます。

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