Disc Review

Gemini Girl: The Complete Hush Recordings / Laurie Styvers (High Moon Records)

ジェミナイ・ガール:ザ・コンプリート・ハッシュ・レコーディングズ/ローリー・スタイヴァーズ

ジュディ・シル、とまではいかないまでも、なぜだかつい見過ごされがちな悲運の女性シンガー・ソングライターとして、んー、知られているのかいないのか…。

ローリー・スタイヴァーズ。彼女が1970年代初頭に残した2枚のソロ・アルバムの音源を中心に、当時所属していたハッシュ・プロダクションのためにレコーディングしたすべての歌声を網羅した2枚組が出ました。10年くらい前、韓国盤でセカンド・アルバムが突如再発されたこととかあったけれど、再発はそれ以来じゃないかな。

1951年、米テキサス生まれのローリーさん。父親の仕事の関係で渡った英国ロンドンのアメリカン・スクールに通っていたとき、ジャスティンというフォーク・ロック・バンドに加入。1970年に1枚、セルフ・タイトルド・アルバムをリリースしている。

ただ、ローリーはコロラド大学に通うためアルバムが出る前にいったんバンドを脱退して帰国。そのせいでジャスティンのアルバム・ジャケットには彼女の姿がなくゲスト扱いなのだけれど、1970年末には再び渡英してバンドに再加入。さあ、これから…というところで、しかしアルバムもあまり売れず、バンドはあえなく解散。ローリーはジャスティンのプロデューサーだったヒュー・マーフィーのハッシュ・プロダクションと契約してソロ活動をスタートさせた。

1971年、米国ではワーナー、英国ではクリサリスからファースト・ソロ『スプリット・ミルク』をリリース。全12曲ローリーのオリジナルで。うち4曲がマーフィーとの共作。ふとキャロル・キングっぽかったり、ジュディ・シルっぽかったり、ジョニ・ミッチェルっぽかったり…。もしかしたらそういう全方位的というか、どっちつかずなところが散漫な印象につながってしまったのかもしれないけれど、このアルバムもまた当時話題を集めることができず終わってしまった。

ぼくはだいぶ後になってから輸入盤バーゲンか何かの機会にたまたま手に入れて、わりとよく聞いた記憶がある。ロンドンを本拠に活動していたためか、ちょっと米国のシンガー・ソングライターにはない翳りのようなものも感じられたりして。曲作り的にも歌唱的にも確かに弱いっちゃ弱い。けど、それがなんだか独特の儚さにつながっていて、気になる歌声だった。

アコースティック・ギターやペダル・スティールなど、いかにも当時のシンガー・ソングライター的な楽器だけでなく、曲によってストリングスやホーンも導入したアンサンブルも初期エルトン・ジョンあたりを思わせて面白かった。個人的にはどことなくハリー・ニルソンを思わせる「ピジョンズ」という曲が特に印象に残っている。トランペットの響きが不思議なアンサンブルを醸し出す「シーズナル・ブルース」とかも好きだった。

週末、ドラッグの助けも借りながら、過去を拒絶して静かに、でもいきいきと過ごしたいな…という、ちょっと遅れてやってきたヒッピー感覚みたいなものを歌ったスウィンギーな三拍子もの「ビート・ザ・リーパー」は米国では受けなかったようだけれど、なぜか英国やデンマークなどヨーロッパではそこそこ人気を博したらしく。そんなこともあって1973年にはクリサリスからセカンド・ソロ・アルバム『ザ・コロラド・キッド』を発表。

プロデュースはやはりヒュー・マーフィー。1作目同様、英国のセッション・ミュージシャン中心にバックアップされていたけれど、このときはジェリー・ドナヒューも参加。ソングライティング面でもちょっと成長したローリーさんの姿をとらえた1枚に仕上がっていた。けど、またも売れずじまい。米国盤は出なかった。失意のローリーさんは帰国。1970年代いっぱいは音楽活動を続けていたようだけれど、最終的にはシンガー・ソングライターとしての道をあきらめ、父親と一緒に動物保護施設を経営するようになっていく。でも、運命は残酷。1998年には肝炎で、なんと46歳という若さで亡くなってしまったのでした。

そんなローリー・スタイヴァーズの若き日のみずみずしい歌声を満載した本作。まだブツを入手できておらずストリーミングで楽しんでいる段階なので読めてはいないのだけれど、かつての仲間からの証言も含むライナーや貴重な写真、メモラビリアを満載した48ページのブックレットも付いているようで、うれしい。2作のソロ・アルバムの収録曲すべてに加えて、アルバム未収録曲や別テイク、デモ・ヴァージョンなども含む全36曲だ。今回初めて接してぐっときた曲も何曲か。改めて味わい直します。日本盤も来月出るみたい。

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