カオス・アンド・ディスオーダー/プリンス
プリンスいきます。
配信とかは出ているけど、フィジカルでは近ごろなんだか入手困難になっている95年以降の作品群の再発プロジェクト“LOVE 4EVER”シリーズ第4弾として、3作が出た。もっとも話題を集めそうなのが、95年夏、パリで開催されたヴェルサーチのファッション・ショーで来場者に限定500本という形で無料配布された幻のカセット『ザ・ヴェルサーチ・エクスペリエンス』か。今年のレコード・ストア・デイにカセットのまま復刻されてファンをどよめかせましたが。
それがめでたくCD化された。もともとミックステープ仕様で制作されたもので、時期的にはアルバム『ザ・ゴールド・エクスペリエンス』発売前。同作収録曲をはじめとするプリンス作品のほか、マッドハウスやニュー・パワー・ジェネレーション名義の音源も含まれている。別ミックスやエディテッド音源もあり。聞き直してみて、改めてマッドハウスのバカかっこよさにやられた。
そして、デビュー以来18年在籍してきた古巣ワーナーとゴタゴタした末、ようやくレーベルを離脱できた96年、それまでため込んでいた溢れるクリエイティヴィティを一気に炸裂させたような3枚組大作『イマンシペイション』。これもすごかった。プリンス本人も当時“これを作るために自分は生まれてきた”とか発言していたし。ぴったり60分のディスク×3という構成も凝っていた。
カヴァー曲が入っていたのにも驚いた。デビュー以来初。スタイリスティックスの代表曲としておなじみの「ゴーリー・ワウ(Betcha by Golly Wow!)」、デルフォニックスの「ララは愛の言葉(La-La Means I Love You)」、ボニー・レイットの「アイ・キャント・メイク・ユー・ラヴ・ミー」、ジョーン・オズボーンの「ワン・オヴ・アス」の4曲。特にスタイリスティックスとデルフォニックス、フィリー・ソウルのダブル・パンチには燃えた。他にもハウスの要素にアプローチしていたり、かと思えばブルースに回帰していたり…。持てる才能を余すところなく詰め込んだ意欲作だった。
でも、個人的には古巣ワーナーからのラスト作として、やはり96年、『イマンシペイション』の半年弱前にリリースされた『カオス・アンド・ディスオーダー』。今回はこのワーナーへの置き土産に改めて注目したい。リリース当初は、なにやら契約消化のため、ロージー・ゲインズも迎え、ニュー・パワー・ジェネレーションとともにマイアミでたった2日で制作した急造アルバム、とか揶揄されがちだった盤ではあるのだけれど。
まあ、たとえそうだったとしても、“こんなもん2日もありゃ作れるんだぜ”というプリンスの不敵な笑みを、当時ぼくは大いに楽しんだものだ。ところが後になって、実は93年から96年まで、レコーディング期間は4年にわたっていたことも明らかになり。近年はだいぶ再評価されているらしきアルバム。今回の再発を機にさらなる評価の高まりを期待したいところです。
この時期に至るまでの数年、プリンスはやみくもに時代の最先端の感触ばかりを体現するのではなく、時代を超える様々な不滅のポップ・イディオムを彼なりに再構築するという作業にいそしんできた感触があった。そんな中、『カオス・アンド・ディスオーダー』ではさらに照準を絞って、多彩な顔を持つプリンスの“ロックンロール・エンターテイナー”としての側面をとことんズームアップしてみせたような。そんな痛快な仕上がりに胸が躍った。
あ、いや、ロックンロールって表現には語弊があるか。曲によっては70年代ディスコ調のえぐいやつとか、スピーディなヒップホップ調とかもあるし。ただ、そうした要素へのまっすぐポップなアプローチぶりも含めて、ぼくはどうしようもなくロックンロールを感じ取ってしまったのだった。ギターも弾きまくってるし。