Disc Review

Walking to New Orleans: Remembering Chuck Berry and Fats Domino / George Benson (Provogue)

WalkingToNO

ウォーキング・トゥ・ニューオーリンズ〜リメンバリング・チャック・ベリー&ファッツ・ドミノ/ジョージ・ベンソン

今日も連休仕様って感じで、なんとなくハッピーな1枚をご紹介しときましょう。ジョージ・ベンソンの新作です。

45作目のニュー・アルバムだとか。すごい数。とはいえ、フル・アルバムのリリースは久々で、6年ぶり。2013年に出た前作『インスピレーション〜ア・トリビュート・トゥ・ナット・キング・コール』はその名の通り、偉大なナット・キング・コールのレパートリーのカヴァー盤だったけれど。今回もその続編というか。これまた副題を見ればわかる通り、今作のテーマはずばりロックンロール。超グレイトなロックンロール・オリジネイター、チャック・ベリーとファッツ・ドミノに捧げたカヴァー・アルバムだ。

まあ、説明は不要だと思うけれど、とりあえず今さらながらの登場人物紹介をしておくと——

チャック・ベリーは、1926年、セントルイス生まれ。55年、ブルースの巨星、マディ・ウォーターズの後押しを受けて名門チェス・レコードのオーディションに合格。以降、「メイベリーン」「ロール・オーヴァー・ベートーヴェン」「ロック&ロール・ミュージック」「スウィート・リトル・シックスティーン」「ジョニー・B・グッド」など、ジャズ、ブルース、ラテン、そして白人のカントリー音楽まで幅広い音楽性をたたえたヒットを連発した。例の誰もが知っている強力なギター・イントロを作り上げた画期的なギタリストでもあり、シニカルな眼差しに貫かれた歌詞が素晴らしい優れたソングライターでもあった。ステージで披露するダック・ウォーク、つまりギターでアドリブを弾きながらアヒルのように脚を曲げてスピーディに飛び跳ねる独特のダンスもおなじみだろう。

一方のファッツ・ドミノは1928年、ニューオーリンズ生まれの黒人シンガー/ピアニストだ。黒人ブギ・ピアニスト、アルバート・アモンズに憧れて10歳のころから人前でピアノを弾き始め、1950年にレコード・デビュー。偉大なプロデューサー/ソングライター/アレンジャー、デイヴ・バーソロミューとタッグを組み、「ザ・ファット・マン」「エイント・ザット・ア・シェイム」「ブルーベリー・ヒル」「ブルー・マンデー」「アイム・ウォーキン」などヒットを連発。地元ニューオーリンズに渦巻くジャズやR&Bの要素を、ありがちな泥臭い形でではなく、より洗練された形で取り入れ、リラックスした中にもほのかな切なさを添えて独自のまろやかなR&Bサウンドを確立してみせた。

と、そんなロックンローラーたちの音楽に、ジャズ/フュージョン・フィールドで活躍してきたベンソンが挑戦しているわけで。まあ、意外っちゃ意外かも。でも、ひと角の米国ミュージシャンならばジャズ界の人だろうが、カントリー界の人だろうが、クラシック界の人だろうが、自国が生んだ20世紀最大最強のカルチャーであるロックンロールの何たるかを身体にしたためていないはずもなく。それをジョージ・ベンソンが身をもって証明してくれた1枚という感じだ。

まぎらわしいけれど、『ウォーキング・トゥ・ニューオーリンズ』ってタイトルだからといって、別にニューオーリンズ・サウンドに貫かれたアルバムというわけじゃない。収録曲のひとつとしてセレクトされたファッツ・ドミノの代表作の曲名をそのままタイトルに冠しただけ。録音はナッシュヴィルのオーシャン・ウェイ・スタジオで。前作が壮麗なオーケストレーションを取り入れたりしながら、主にシンガーとしてのアイデンティティを強調した1枚だったのに対し、今回はジョー・ボナマッサやジョン・ハイアットらとの仕事でも知られるケヴィン“ザ・ケイヴマン”シャーリーのプロデュースの下、ナッシュヴィルの名手たちによるコンボ編成のロックンロール・バンドを従え、歌に、ギターに、ファンキーなロックンロール/R&B感覚を炸裂させた1枚に仕上がっている。

オランダのレコード会社“プロヴォーグ”への移籍第一弾なのだけれど、このレーベル、そのボナマッサをはじめ、ケニー・ウェイン・シェパード、ジョニー・ラング、ウォーレン・ヘインズ、ロバート・クレイ、ロベン・フォード、レズリー・ウェストなど、新旧ロック/ブルース・ギタリストが大挙在籍するところ。今回のテーマを全うするには絶好の新天地だったに違いない。

なんとなく半端な見識しか持っていないジャズ系の人だと、根拠なく上から目線で「はいはい、ロックンロールも取り上げてあげましたよ」的なアプローチになったりもするわけだが。ジョージ・ベンソンはちゃんとした立派な方ですから。きっちり、真っ向から、見ようによってはむしろ謙虚な姿勢でロックンロールに取り組んでみせている。ホーンやストリングス・セクションを含めたアレンジも最高。ヴォーカルも力強い。もちろんギターもごきげん。歌声とユニゾるお得意のギター・ソロもしっかり披露。おかげで、巧みな技量に裏打ちされた完成度の高さと、ロックンロールの何たるかを知り抜く者たちならではのワイルドな躍動感とが同居する佳盤が思いがけず誕生した感じ。なんか、うれしい。

選曲はわりと有名どころ中心ながら、ちょこっとだけ渋めのところを混ぜ込んであるのも憎い。特にチャック・ベリーの自作ブルース・チューン「ハウ・ユーヴ・チェンジド」とか、いいとこ持ってきたなって感じ。「ハヴァナ・ムーン」もいい。この曲のカヴァーはけっして少なくないけれど、本作のヴァージョンほどの完成度を達成したパフォーマンスは、これまでそうはなかった気がする。ストリングス・アレンジとか最高ですよ。ロックンロールは深いですよ。

George Benson - Blue Monday (Official Lyric Video)

Resent Posts

-Disc Review
-,