Disc Review

Rock 'N' Roll: Remixed & Remastered Edition / John Lennon (Apple/Parlophone)

ロックンロール:リミックス&リマスター・エディション/ジョン・レノン

反響がありましたよ。オレ流『SMiLE』。

ぼくが自分で昔の未発表音源を使った『SMiLE』を編集して楽しんでいるということを書いたら、自分もやってます…という報告メールを多数いただいた。海外のマニアが作ったものもネットのあちこちにアップロードされていて。その所在を教えてくださった人もいた。いいね。マニアの気持ちはひとつだね(笑)。なにやらブート業者も同趣向の盤を作成中らしく。相変わらず、こういうマニアの情熱を商魂へとすりかえちゃう連中もいるわけですが。

何人かの方はオレ流『SMiLE』の音源を送ってくださったりもした。多くの場合、今回のブライアンによる2004年版『SMiLE』の構成を、過去、CDのボーナストラックとか、ボックスセットとか、ブートとかで世に出たボツ音源を使って再構築していて。結局同じ音源を使った作業なので、まったく同じようになるはずなのに、作成者それぞれの個性とか、思い入れとか、音楽観とか、センスとかが随所に発揮されていて。けっこう違う仕上がりになってたりする。なんだか面白い。みなさん、ありがとうございました。

で、話は変わるようで、変わらないのだけれど。先日、ジョン・レノンの『ロックンロール』のリミックス&リマスター盤が出て。大好きなアルバムなのに、いや、大好きなアルバムなだけに、と言ったほうがいいか。ちょっと複雑な気分になった。ジョン・レノンのリミックス盤とかビートルズのリミックス盤とかって、ずいぶんとオリジナル・ミックスから離れてしまうことが多くて、ぼくは個人的にあまり好きになれない。というのも、たとえ不本意だったにせよ、オリジナル・ミックスというのはその時期にそのアーティストが、とりあえずこれでOKという気持ちで世に出したもので。その時点で、アーティストの手すら離れて盤そのものとしてオリジナルな存在感を主張し始める。これはね、かなり絶対的なものだと思う。で、その音像をもとにして、聞き手がそれぞれの頭の中でそれぞれの世界観を構築していく、と。音楽好きにはよくあることだと思うけれど、ある曲のギターの印象的なフレーズとか、コーラスのフレーズとか、ドラムのフィルとか、大きくミックスされているとイメージしていたのに、実際に盤を聞き直してみたら、実はけっこう小さかったり。逆に、改めて盤を聞いたら、こんなにヴォーカルでかかったっけ? みたいな。

これがいいんだよなぁ。これがまた音楽の醍醐味。本人が何らかの意図でミックスを新たにする場合はまた違った評価になるのだろうけど。ジョン・レノンとかジミ・ヘンドリクスとかエルヴィス・プレスリーとかのような故人の既発音源をリミックスするとなると、そのリミックス・エンジニアがよほどそのアーティストなり、あるいは制作を司っていたプロデューサーなりのことを知り抜いているか、当時の事情を勉強しているかでない限り、いい結果に終わることはありえない。本人が関わったリミックスでさえ、オリジナルを超えることはほとんどないというのが、その種のものを多数聞き続けてきて得たぼくの実感だ。今回の場合、オノ・ヨーコ監修だからいいじゃないかという意見もあるようだけれど、『ロックンロール』はソロになってからのジョンが、唯一、ヨーコと別れた状態の時期に作られたものだし。

リミックス・エンジニアも、あるいはアーティスト本人さえも、オリジナル盤が出たあとはぼくたち聞き手と同じ立場になってしまうのだ。彼らもまたオリジナル・ミックスに接しながら、それぞれの頭の中でそれぞれの世界観を構築していて。リミックス作業ではその世界観をもとに、よりデフォルメかける形で音像が仕上がってしまう、と。まあ、それもそれで面白いのは確か。だからこそ、オレ流『SMiLE』ですら作成者それぞれの個性が出るのだろうし。

でも、だからこそ、ぼくはオリジナル・ミックスも破棄せず、ちゃんと世に出したままにしておいてほしいと願う。オリジナル・ミックスがあったうえでのリミックスであればそれなりに楽しめるのだから。なので、リミックスより前に、まずはオリジナル・ミックスを最良のリマスターで出すという作業こそを進めてほしかった。ビートルズの音源とか、一部は結局オリジナルUKアナログ・ミックスも、当時のUSミックスも、まったく市場にない状態が続いている。これは不幸だ。当時の作業に満足な時間がかけられなかったというジョージ・マーティンの主張によるものだと聞いているけれど。ミックスも音楽を作り上げるうえで重要な要素であるからこそ、不満足なものといえども、オリジナル・ミックスはそのまま世に残しておいてほしい。ミックスも含めてオリジナル音源。ビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』にしたって、後年、ステレオ版が出たときはその豊かな広がりに驚喜したものだけれど、長いこと聞き続けてきたら、やっぱりオリジナル・モノ・ミックスのほうが断然心に響くことがわかったし。その辺、やっぱりこだわってほしいものです。今度出るというビートルズのUS仕様盤の再発のミックスって、どうなってるんだろう…。

というわけで、今回は珍しくあまりおすすめでないピック・アルバムです。冒頭、カウント入りの「ビー・パップ・ア・ルーラ」からして、いきなりオリジナル版のむちゃくちゃ扇情的なオープニングに水を差しちゃった感じもするし。分離がきわめて悪かったオリジナル版のおだんごミックスが放つワイルドかつ凶悪な手触りには、やっぱりかなわない。リミックスされていないボーナス・トラック、特に「エンジェル・ベイビー」はいいもんなー。胸にくる。とりあえず本編のほうもリマスターだけで出してほしかった。けど、『ロックンロール』に関しては、本格的なデジタル・リマスターは施されていないとはいえ、今のところオリジナル・ミックスのCDも出たままなので、違いを楽しむという方向性でおすすめしましょう。もちろん、国内盤およびEU盤などはCCCDなので、よい子は買わないように。ちょっと高いけど、通常CDのUK盤でお願いします。US盤も、もちろん通常CDで11月上旬にリリースされる。アマゾンしましょう。

物理的に音質が悪いと、もうそれだけで聞く気にならないから、今回のリミックス&リマスター盤のほうがいいという意見も耳にはするし、それはそれでひとつの聞き方かなとは思うけれど。音質が悪いと聞く気にならないというのは、聞き手としての重要なクリエイティヴィティを自ら放棄しているようなものだと思う。そういう人は一生、ロバート・ジョンソンの凄まじいファンキーさも、ジミー・ロジャースのとてつもない切なさも、チャーリー・パーカーのスリリングさも、トスカニーニのスピード感も、音質が悪いというだけで実感できずに過ごすんだろうか。それはもったいないぞー。人間には想像力ってものがあるんだから。それを存分に活用しなくちゃ、ね。

ところで、実はこの文章、ホームページのトップにいる期間が短いかも。なにせ、ブライアン・ウィルソンのニューヨーク公演が明日、あさってに迫っているもんで。また自腹で来ちゃいましたよ、ニューヨーク。絶好調のブライアン・ウィルソン・バンドだけに、今年の2月にロンドンで見たときよりもかなりグレードアップしてるんだろうな。今回の『SMiLE』ツアーに参加しているホーン・セクションのメンバーの話によると、『SMiLE』のスタジオ盤を録音したあと、さらにアレンジが充実した方向に変更されているとのことだし。ライヴを見て、またまた感動を新たにしたらあっという間に更新でしょう。うー、楽しみだなぁ。

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