Disc Review

Portrait Of A Legend 1951-1964 / Sam Cooke (Abkco)

ポートレイト・オヴ・ア・レジェンド1951〜1964/サム・クック

7月21日、海の日にちなんだ恒例イベント、CRT&レココレ・プレゼンツ「ビーチ・ボーイズまつり~オール・サマー・ロング2003」にご来場くださったみなさん、ありがとうございました。大入り満員で、うれしいうれしい。大勢のみなさんと初期ビーチ・ボーイズの魅力を分かち合えた、まじ、夢のような夏の夜でした。ただ、こちらの判断ミスというか、うれしい誤算というか、こんなにたくさんの方が来てくださると思わなかったもんで。来てくださった方々、全員にプレゼントしようと作ったマイク・ラヴ・バッヂ、題して“Summer Of Love 2003”(笑)が足りなくなっちゃって。お会計、最後のほうになった方にお渡しできませんでした。ごめんなさい。こういう泥ナワっぽい対応でいいのかどうか、少々心苦しいのですが、もらえなかった方で、次回とか、それ以降とか、CRTイベントに来てくださることができる方は事前にぼくにメールください。追加製作して用意しておきますので。

次回も楽しいっすよー。絶対。宮治淳一を招いてのオールディーズ・ナイト第二弾。底知れぬドゥーワップの魅力をたっぷり堪能していただきます。翌日がサーフビーツのライヴという、ちょっとヘヴィなスケジューリングですが。全力投球でとろけます(笑)。

そうそう。ビーチ・ボーイズといえば、もう出たのかな、間もなく出るのかな、『ペット・サウンズ』のDVDオーディオ盤。楽しみ楽しみ。オリジナル・モノ、ステレオ、5.1サラウンド、全フォーマット収録という夢の一枚。早く聞きたいものです。ビーチ・ボーイズの国内盤をリリースしている東芝EMIは、今後、邦楽だろうが、洋楽だろうが、新譜だろうが、再発盤だろうが、基本的にはすべて例の邪悪なCDS方式のCCCD(コピー・コントロールCD)仕様にしちゃうみたいで。いっそ全部のリリースがDVDオーディオにならないかなぁ。先日も、今年の暮れに向けてベンチャーズの名盤『クリスマス・アルバム』のモノ/ステレオ両フォーマットを詰め込んだCDを日本独自に再発するのでライナーを…という依頼を受けたものの、これもCCCD仕様でのリリース予定。そんな商品に加担したくないので、断腸の思いでライナー断わりましたよ。CCCD仕様での発売ゆえにライナー執筆を断わった盤、これで何枚目だろう。東芝EMIだけでもう3~4枚か。やんなっちゃう。

まあ、ライナーが書けなくっても別にいいんだけどさ。それより、買う立場、一音楽ファンとしてのほうが困る。洋楽新譜とか、アメリカ主導による再発盤の場合は、日本盤がCCCDでもアメリカ盤は通常のCD-DAでリリースされることがほとんどなので、ネットの通販で輸入盤をゲットすればとりあえず問題なしなんだけど。日本独自の再発盤がCCCDってのは、まじ、困ります。CCCDも日本で導入されてすでに1年以上。別段、何の成果もあがってないことは明白で。にもかかわらず今さら本格導入に踏み切る東芝EMIの心持ちってのがさっぱり分からない。企業ってのはそういうものなのでしょうか。情けない。

アメリカでCCCDが出ない理由は、あちらでは消費者運動が強力で、こんな商品を出したらユーザーから訴訟されて負けまくるからなわけでしょ? そんな商品を日本は出しているわけだよ。平気で。ナメてるんだろうね、ユーザーを。訴訟制度も日米では違うし、現実的にはユーザー側が訴えにくい現状だけに、どうにも手出しできないわけだけれど。洋楽ファンはアメリカ盤買うことで、せめてもの抵抗を試みたいところです。日本の輸入盤店に並んでいるのは、大方の場合日本のレコード会社が輸入した盤だったりするので、意味なし。プロテクトのかかったヨーロッパ盤だけ輸入して配給していることも多いし。だからアマゾンしましょう、アマゾン。アマゾンUSから直接ネット通販だ。

しかし、これで今後たとえばビーチ・ボーイズのオリジナル・アルバムの新装再発とかがあるとして。東芝EMIだから、それが全部CCCDになっちゃうわけでしょ。それはやだなぁ。今出ているビーチ・ボーイズの日本盤CDのほとんどがぼくのライナーなんだけど。それも全部引き上げないといかんなぁ。どうせなら全盤、『ペット・サウンズ』に続いてDVDオーディオ化ってのが理想です。百歩譲って、レコード会社側が主張するように現在のCD売り上げ激減の原因がネットを介して違法にやりとりされているデジタル・コピーのせいだとして。それをなんとか防ぎたいとレコード会社が考えているのならば、規格を逸脱するかなり無理なプロテクトしかかけられない(しかも、何の現実的な効力も発揮できていない)既存のCDフォーマットなんか捨てて、早々に次世代メディアへの移行に踏み切るべきでしょう。

と、そんなわけで、今回のアルバム・ピックは、DVDオーディオと並ぶ次世代メディアのひとつ、SACD方式によるサム・クックの再発盤。ローリング・ストーンズのデッカ音源の一連の再発盤同様、ボブ・ラディックによるリマスターがほどこされている。これまたストーンズ同様、SACDと通常のCD-DAとのハイブリッド・ディスクなので、普通のCDプレーヤーでももちろん再生できる。うれしい。

サム・クックの場合、フィル・スペクター関連とか、カメオ/パークウェイ関連とか、初期ローリング・ストーンズとかの音源を仕切る例の弁護士のせいで、必殺の「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」や「シェイク」など一部の重要な曲がなかなか世に出ずファンを悲しませてきたわけだけれど。今回の再発は、その弁護士が仕切るアブコ・レコードからのものなので、ばっちり。ここに取り上げた『Portrait Of A Legend 1951-1964』は86年にRCAから出た傑作ベスト『ザ・マン・アンド・ヒズ・ミュージック』を下敷きに一部曲を入れ替えて編纂されたものだ。ソウル・スターラーズ在籍時のゴスペル曲で前後をはさみ、代表曲が全30曲。もちろん「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」も「シェイク」も入っている。淡々と、端正に歌い綴っているようでいて、同時にむちゃくちゃセクシーであり、素晴らしくブルージーでもある本盤でのクックの歌声に心が震えない人がいるとしたら、そういう人はおんもで遊んでなさい。神に対する熱い思いを託した敬虔なゴスペル感覚と、安酒と女に彩られたブルースと。聖なる歓喜と悲痛なセンチメンタリズムと。一見相対するふたつの感情が渾然と渦巻くサム・クックの世界はまさにワン・アンド・オンリーだ。

ロバート・ジョンソン、ハンク・ウィリアムス、エルヴィス・プレスリー、オーティス・レディング、ジミ・ヘンドリクス…。すぐれたポップ・ミュージックを論評する際、“邪”と“聖”の共存というか、その両者がいかに、何の矛盾もなく、分かちがたいものとして内包されているか、というポイントがよく語られるわけだが。その、いまいましくも魅惑的なアンビバレンスというか、パラドクスというかの最も美しい、ある種のピークは、たぶんサム・クックの歌声にこそあるんじゃないか、と。ぼくは思うのだ。今回はコンピ、オリジナル・アルバム交えて全5枚が同時にSACD/CD-DAのハイブリッド仕様で再発されて。もちろん最終的には全部揃えるのが理想だけど。けっこう大量に曲がダブるので、一気買いはあまりおすすめしません。ぼくは一気買いしちゃいましたが(笑)。まずは本ベストを入手して、いい音で、いい歌、聞きましょう。泣きましょう。

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