イグニション!/ブライアン・セッツァー '68 カムバック・スペシャル
このバンド名を聞いただけで盛り上がれる人にはばっちり。もうそれだけで名盤。逆に、このバンド名を聞いても何とも思わない人には、たぶん本盤の魅力の半分も伝わらないのかも。
いちおう説明しておくと。エルヴィス・プレスリーが最後の黄金時代を築き上げるきっかけとなったTV特別番組があって。それの正式タイトルは『エルヴィス』。68年暮れに米NBCを通じて放映され、驚異の視聴率を叩き出した伝説の番組なのだけれど。その番組のことを、ファンは通称“68年カムバック・スペシャル”と呼んでいるわけやね。
で、ブライアン・セッツァー。こいつ、それを自分のバンド名に付けてしまったわけだ。すごいね。フツーだったら熱心なエルヴィス・ファンがムカッときそうなところだけど。でもさ。ブライアン・セッツァーだから。ストレイ・キャッツでデビューして以来、全世界のロックンロール/ロカビリー・ファンの期待と尊敬を一気に全部背負ってしまった世界一のロックンローラーだから。何も知らずに自分のバンドにタートルズって名前つけたりする愚挙とはまるで違う。
今年2月のブライアン・セッツァー・オーケストラでの来日公演でも、ステージ冒頭、メンバーがだだだっと出てくるときのBGMは、なんとエルヴィスの「バーニング・ラヴ」だったくらいで。「バーニング・ラヴ」だよ。「ハウンド・ドッグ」とか「監獄ロック」とか、あるいは「グッド・ロッキン・トゥナイト」とか「ミステリー・トレイン」とかじゃなく、1972年の「バーニング・ラヴ」。
普通考えたら、なんとも中途半端な選曲だけど。これ一発でブライアン・セッツァーのエルヴィス観の深さというか、アメリカン・ロックンロールに対する深い愛というか、そういうのが伝わってきた。すごい。
ちなみに、今回のブライアン・セッツァー68カムバック・スペシャルに関するインタビューで、「このバンド名はエルヴィスへのトリビュートですか?」という質問に、ブライアンは「すべての音楽はエルヴィスへのトリビュートだろ?」と答えたとか。いかすぜっ。
というわけで、内容のほうは、オーケストラでの来日公演でもステージ中盤で披露されたロカビリー・トリオ編成の演奏。オーケストラのドラマーとベーシストだけを従え、ストレイ・キャッツ時代をほうふつさせる、火を噴くロックンロール・アルバムに仕上げている。もちろん年齢を重ねたせいもあり、ハード・コアにロカビリーの美学を貫いていた感のあるストレイ・キャッツ時代よりもぐっと音楽的な幅は広がって。ヨーデルまで聞かせる2ビートのカントリー・チューンが飛び出したり、それこそ「バーニング・ラヴ」時代のエルヴィスが歌ってもよさそうな70年代サザン・ポップふうの曲があったり、60年代エルヴィスっぽいスパニッシュ系の曲調と強力なロカビリーが交錯する曲があったり、オーケストラでやってもかっこよさそうなジャンプR&Bがあったり…。無益なツッパリ感はなし。自然体。懐の深さが気持ちいい。
ジョー・ストラマーやバンド・メンバーとの共作曲も含め、ほとんどがオリジナルだが、もちろん最近恒例のカヴァーもあり。ラテン・スタンダード「マラゲーニャ」をぶちかましてますよ。あと、「ドリームズヴィル」って曲でブルージーなバック・コーラスをつけているグループに“ザ・ブライアネアーズ”って名前をつけていて。これ、初期エルヴィスのバック・コーラス・グループだったジョーダネアーズのもじり。ソロ・アルバムで“冗談じゃねーやーず”ってグループ名を使ったことがある大滝詠一師匠に続く快挙でありましょう。
とにかく、ロックンロールから、カントリー、ブルース、ラテンまで様々な音楽性を自在に行き来しながら、ストレートで、コンパクトで、スピーディなロカビリー魂を炸裂させている。タイトル通り、収録曲は基本的に車を題材にしたものばかり。ブライアン・セッツァー・オーケストラの公演当日、渋谷の街がアメ車だらけになっていた光景を思い出します。ほんの10日間で録音からミックスまで全部完成させちゃったという勢いも素敵だ。当然オーケストラ名義のアルバム以上にギターも弾きまくっているし。この人、本当にかっこよく年とりつつあるって感じだ。見習おう。こいつ、年下だけど(笑)。
というわけで、ブライアン・セッツァーも共演したことがあるキング・オヴ・ブライアン(笑)、ブライアン・ウィルソン来日公演のスケジュールです。
東京: 2001年9月20日(木)
東京国際フォーラムホールA
東京: 2001年9月21日(金)
東京国際フォーラムホールA
名古屋: 2001年9月22日(土)
愛知県芸術劇場大ホール
福岡: 2001年9月24日(月)
福岡サンパレス
大阪: 2001年9月25日(火)
大阪厚生年金会館
チケット発売日:7月初旬予定
開演時間とか、チケットの発売元とか、そういうのは各自チェックしてください。ちなみに、全米で展開するポール・サイモンとのジョイントではないです。ブライアン単独。もちろん単独のほうがたっぷりとブライアンのライヴを楽しめるわけで。こっちのほうが断然うれしい。あー、待ち遠しい。