
トラブル・イン・パラダイス(エクスパンデッド・エディション)/ランディ・ニューマン
月曜日のCRT“ノンサッチ捕物帖”。たくさんのお運び、ありがとうございました。ノージくんの研究発表、まだまだ語り足りないくらいだったみたいですが、ほんの一部とはいえ、語れた部分に関してはとにかく充実した夜が過ごせたと思います。また続編、できたらいいですね!
で、次回は本ブログでも大喜びしたジョニ・ミッチェッルの最新ボックス『ジョニズ・ジャズ』をめぐるジョニまつりです。
ゲストは前回のジョニまつりから引き続き、丸山京子さん。インフォメーションの欄などご参照のうえ、こぞってのご来場、お待ちしてます。詳細はロック・カフェ・ロフトのスケジュール・ページへ。
というわけで、今朝のピックアップ。“ノンサッチ捕物帖”でもラストをこの人のピアノ演奏で締めた、ランディ・ニューマンです。1983年の『トラブル・イン・パラダイス』が最新リマスター音源にデモ音源、レアなスタジオ・ライヴ音源などボーナスを大量投下した形で2枚組仕様で再発されました。
ランディ・ニューマンのオリジナル・アルバム拡張エディションというのは2002年に出た『セイル・アウェイ』と『グッド・オールド・ボーイズ』以来? 久々のエクスパンデッドものです。
ランディ・ニューマンにとって7作目のオリジナル・アルバムにあたる『トラブル・イン・パラダイス』。それまで、だいたい2年に1作ペースでアルバム・リリースを続けてきたランディさんが、前作『ボーン・アゲイン』から久々、4年ぶりに放った新作だった。今も毎度、ロサンゼルス・ドジャースがホームで勝利するたび流れてくる「アイ・ラヴ・L.A.」や、ポール・サイモンをデュエット・パートナーに迎えたファースト・シングル「ザ・ブルース」あたりが代表的な収録曲かな。
プロデュースはラス・タイテルマンとレニー・ワロンカー。バックアップしているのはスティーヴ・ルカサー、デヴィッド・ペイチ、ジェフ・ポーカロらTOTO組をはじめ、ネイザン・イースト、レニー・カストロ、ボーリーニョ・ダ・コスタ、ジェリー・ヘイ、 ジム・ホーン、ワディ・ワクテルら。他にもリンダ・ロンシュタット、ジェニファー・ウォーンズ、ウェンディ・ウォルドマン、リッキー・リー・ジョーンズ、クリスティーン・マクヴィ、リンジー・バッキンガム、ボブ・シーガー、ドン・ヘンリーらがコーラスで大挙参加した豪華レコーディングではあったものの…。
1977年に「ショート・ピープル」が突発的に大ヒットしたとはいえ、持ち前のシニカルでブラックでひねくれた個性ゆえか、そのまま一般的な人気を継続することもなく、相変わらず独自のフィールドで独自のテイストを発揮し続けたニューマンさんならではの1枚だった。
たとえば、件の「アイ・ラブ・L.A.」にしても。この曲、一見ロサンゼルスという街を誇り、徹底的に褒め称えているように見える歌詞にもかかわらず、背後にはニューマンがなぜこの街を好きになれないか、その真意が見え隠れしている。“センチュリー・ブルヴァード、最高(We love it)! ヴィクトリー・ブルヴァード、最高! サンタモニカ・ブルヴァード、最高! シックス・ストリート、最高!”と豪華なゲスト陣と声を上げながらも、ニューマンは同時に、LAの住民たちが話題にしないようにしているらしき、たとえば金をせびるホームレスたちの姿とか、パーム・ツリーやら派手な女性たちやら、街の過剰な贅沢ぶりとかまでを浮き彫りにしてみせている。
赤毛の女の子を助手席に、オープンカーで、ビーチ・ボーイズを爆音で聞く…みたいな、ビデオクリップにも登場する描写もあって。それを肯定しているんだか否定しているんだか、なんともよくわからないプレゼンテーションがいかにもランディ・ニューマン。でも、今やそんな皮肉な歌が街を象徴するアンセムのように機能しているというのも、これまたランディ・ニューマンならではというか。
アルバム全体がそういう感触に貫かれている。ロサンゼルスに暮らす尊大で不遜な男が自らの生き方に何ら疑問を持たず、やりたい放題、堕落した暮らしを続けている様子が一人称で描かれた「マイ・ライフ・イズ・グッド」とか、どうやらこの主人公、最後に出てくるブルース・スプリングスティーンとのやりとりから、ニューマン本人らしい…みたいな? いっさい悔い改めることのない人種差別主義者の白人南アフリカ人の視点から綴られた「クリスマス・イン・ケープタウン」など、今の時代に聞いてこそ意味を持つ1曲かもしれないし。
今回の再発盤は、そんなオリジナル・アルバムの2025年最新リマスター音源に、アルバム収録曲はもちろん、未発表曲(「ビッグ・ファット・カントリー・ソング」と「レインボー」)も含むデモ音源や、フランスでプロモーション用に限定リリースされたスタジオ・ライヴ音源によるアルバム『Un Samedi en Décembre』をまるごと追加。テレビ番組用の音源らしく、ニューマンのピアノ弾き語りも、フル・オーケストラを従えた演奏も、どちらも素晴らしい。初CD化ということもあり、これ手に入れるだけでも今回の拡張エディション、十分に価値ありかも。