Disc Review

Send a Prayer My Way / Julien Baker & TORRES (Matador Records)

センド・ア・プレイヤー・マイ・ウェイ/ジュリアン・ベイカー&トーレス

先日、ルーシー・デイカスの新作を紹介したときにもちらっと触れたのだけれど。

ジュリアン・ベイカーがトーレスことマッケンジー・スコットとタッグを組んだアルバムもいよいよリリースされました。

メンフィス出身のジュリアン、メイコン出身のトーレス。二人とも南部にルーツを持つシンガー・ソングライターというか、優れたストーリーテラーなわけだけれど。それだけに、やはりカントリー音楽からは大きな影響を受けてきていて。でも、ともにクィアであることをカミングアウトしている二人だけに、多くのカントリーが孕んでいる南部に特有の保守的な価値観のようなものをそのまままっすぐ受け入れて共感することはできなかったらしく。

そうした逡巡の下、しかし、それぞれに育んだヴィジョンとかアプローチとかによって、カントリーが持つ素朴さとか、情感豊かな表現とか、真摯な物語性とか、ユーモアとか、アイロニーとか、困難に直面したときの反骨心とか、慰めとか、そして何よりも豊かな音楽的なアンサンブルとか、そういった様々な要素を自分たちなりに取り込み、消化して。やがて独自の音楽性を確立するに至って…。

で、今、そんな二人が力を合わせ、改めて自分たちのカントリー・ルーツへと立ち返り、素晴らしいアルバムを届けてくれた、と。そういう感じ。ローリング・ストーン誌にもそんな記事が載っていたけれど。これもまた今の時代ならではのアウトロー・カントリーなのかも。

特にアメリカでは、多くの人たちによるこれまで長年にわたる議論や努力を一瞬にしてぶちこわすような、多様性完全無視の暴挙が相次いでいるもんで。この先、どうなっていくのやら。本当に心配でならないわけですが。往年のラヴェンダー・カントリーやk.d.ラングへの再評価とか、近年のオーヴィル・ペックとか、リル・ナズ・Xとか、ブランディ・カーライルとか、さらにはドリー・パートンやケイシー・マスグレイヴスのようなLGBTQ+フレンドリーなアーティストたちも含め、そういう時空を超えた仲間たちとともに、新しい価値観で文化の幅を力強く、でも、むりやりにではなく、ナチュラルに広げていってほしいものだなと願います。

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