Disc Review

Civilians: 2024 Remastered Version / Joe Henry (earMUSIC)

シヴィリアンズ:2024リマスタード・ヴァージョン/ジョー・ヘンリー

コンピュータを新調するにあたってデータ整理。ちょっと昔の原稿ファイルとかチェックしていたら、2010年くらいに書いた原稿で、2000年代のベスト・アルバムを選ぶ…みたいなやつが出てきて。そこにぼくが個人的にリストアップしていた20作中、1位がブライアン・ウィルソンの『SMiLE』で。2位がボブ・ディランの『モダン・タイムズ』で。

それに続く第3位が、このほど再発が実現したこのアルバムでした。ジョー・ヘンリーの『シヴィリアンズ』。2007年リリースのソロ10作目。ほんと、よく聞いたなぁ…と、その原稿を眺めながら思い出しました。あまりにも深く、美しく、痛く、切ない傑作だった。

この人、当初はグラム・パーソンズ・チルドレンというか。オルタナ・カントリーの文脈からシーンに登場してきて。その後、1996年の『トランポリン』あたりから音楽的な幅と深みを一気に増していって。半ば腕尽くでルーツ・ロック色を払拭しつつ、2000年代に入るとソウル、ジャズ、音響派などへの急接近を果たした『スカー』(2001年)や『タイニー・ヴォイシズ』(2003年)といった衝撃の名盤を生み出してきたわけだけれど。

ソロ作としては『タイニー…』から4年のブランクを置いて2007年にリリースされた本作『シヴィリアンズ』では、キャリア総なめというか。ある時期、あえていったん封印していたかに思えたフォーク/カントリー志向まで含め、それまで以上に明解かつ多彩な形でルーツ音楽への熱い眼差しを提示してみせていた。しびれた。

フォーク、ブルース、ジャズ、ラグタイム、ゴスペル、R&B、カントリー、クラシック音楽などの要素が渾然と渦巻く豊かな音世界。多彩なアーティストのプロデュース・ワークを通して自らも表現の幅を広げてきたヘンリーさんだけど、ちょうどこの時期、プロデューサーとして関わったラウドン・ウェインライトⅢ世による映画『ノックド・アウト』のサントラ『ストレンジ・ウィアードズ』での試行錯誤あたりが少なからずいい影響をもたらしたのかも、とか思ったものです。

何より、曲作りが緻密になって。と同時に、シンガーとして…というより、ストーリーテラーとしての魅力も深まった。「パーカーズ・ムード」とか「ゴッド・オンリー・ノウズ」とか、チャーリー・パーカーやビーチ・ボーイズの有名レパートリーと同名異曲を、たぶん意図的に適所に配したり、伝説のメジャー・リーガー、ウィリー・メイズを歌詞に登場させたりしながら、周到に構築されたパラレルなアメリカの情景。そこには語り手の嫌みな自己顕示は皆無。住む国は違えど、われわれ日本の聞き手でさえも、すべてそれぞれの物語へと昇華できる佳曲が勢揃いしていて。泣けました。

音のほうもウェインライト盤の続編的な仕上がり。『ストレンジ…』にも参加していたジェイ・ベルローズ、グレッグ・リース、デヴィッド・ピルチ、パトリック・ウォーレン、ヴァン・ダイク・パークス、セクション弦楽四重奏団らがこちらでも大活躍。ラウドン・ウェインライトもコーラスで参加している。アルバム中盤に収められている「ユー・キャント・フォール・ミー・ナウ」は『ストレンジ…』にも収録されていたヘンリー/ウェインライト共作曲だ。ヴァン・ダイクのノスタルジックなピアノをフィーチャーした「シヴィル・ウォー」と「アイ・ウィル・ライト・マイ・ブック」も至福。加えて、ビル・フリゼールも全編にわたって参加してます。そういや、参加ミュージシャンの大半がフリゼールのツアーでもおなじみだった顔ぶれだもんね。

と、そんな傑作アルバム。発売から17年の歳月を経て、未発表デモ音源4曲をボーナス追加し、さらにオリジナル収録曲には最新リマスターをほどこした形で再発されましたー。デモはピアノあるいはギター1本をバックにしたシンプルなもので。初出曲「ブレッド&フラワーズ」も含まれてます。本編ではヴァン・ダイクのピアノ中心に綴られた「アイ・ウィル・ライト・マイ・ブック」の訥々としたギター弾き語りデモとか、こっちもすごくいい感じ。

180g重量アナログLP2枚組(SIDE AからCにオリジナル収録曲、SIDE Dにデモ4曲)、およびデジパックCDでのリリース。昨深夜からストリーミングもスタート。改めて聞き直しつつ本作の素晴らしさに胸震わせております。本作に続いて、10月には2009年の『ブラッド・フロム・スターズ』、12月には2014年の『インヴィジブル・アワーズ』が、それぞれ同じフォーマットで再発される予定。三部作、再評価の時がやってまいりました。

前立腺癌の闘病も乗り越え、去年はソロ・アルバム『オール・ジ・アイ・キャン・シー』をリリース。今年はジュリアン・ラージの新作『スピーク・トゥ・ミー』のプロデュースも手がけて。引き続き、新作ソロのリリースも待ってます。

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