ドロップアウト・ブギー/ザ・ブラック・キーズ
去年リリースされた『デルタ・クリーム』で、ジュニア・キンブロウ、R.L.バーンサイド、ミシシッピ・フレッド・マクダウェルら、いわゆる“ヒル・カントリー・ブルース”の名曲群をカヴァーしまくってみせたブラック・キーズ。前ツアーの終わり近く、バンドでのアンサンブルなりコンビネーションなりががっちり固まっていたであろう時期に、ほぼリハなし、ほんの10時間くらいで仕上げてしまったという触れ込みの1枚だったけど。むしろその性急なスピード感が、彼らのルーツをより鮮明に浮き彫りにしてくれたというか。
と、そんな勢いあふれるカヴァー作から1年。最近の彼らにしては意外にも早いペースで、次なる新作、出ました。今回は全10曲、すべてブラック・キーズの2人、ダン・アワーバックとパトリック・カーニーが曲作りに絡んだオリジナル・アルバムで。もちろんナッシュヴィルにあるアワーバックのイージー・アイ・サウンド・スタジオでのレコーディング。彼らの作品にしちゃ珍しく、ZZトップのビリー・ギボンズとか、レイニング・サウンドのグレッグ・カートライトとか、シエラ・フェレルとか、わりと派手めなゲストが演奏、あるいは曲作りに手を貸している。
とはいえ、手触りは変わらず。生々しくワイルドで、ずぶずぶにマディで、ごきげんにタフなブルース・ロックの雨アラレ。昨今のヒット曲からギター・ソロがなくなったとか、あっても飛ばし聞きされちゃうらしいとか、いろいろ話題にはなっていて。まさに今、テレビで高野寛くんが危機を訴えておりましたが(笑)。このアルバム聞いている限り、そんな危機感まるでなし、みたいな。痛快なギター・リフが全編にあふれている。かっけー!
2002年にアルバム・デビューして。2011年に『エル・カミーノ』で大当たりして。すでにキャリア20年。二人とも40歳代に突入して。でも、年齢を重ねるほどに雑になってきているというか(笑)。いい意味で。年の功。アワーバックのギターも、カーニーのドラムも、どっちのテクニックもずば抜けているわけではない…というか、むしろぐしゃぐしゃだったりもするのだけれど、それがまた不思議な浮遊感につながって。サイケデリックな催淫作用みたいなものすらプレゼントしてくれたり…。そんな味も含めて、あー、これがロックンロールだよなぁ、ブルース・ロックだよなぁ、と再確認できるうれしい1枚だ。
アルバム・リリースの直前、ロサンゼルスのトゥルバドールでリリース・パーティのようなライヴがあって。ネットでも有料配信された。ノージくんがチケットを買って見ていたので、ぼくもおこぼれで楽しませてもらったのだけれど。
いやー、ごきげんだった。狭いライヴ・クラブでのブラック・キーズ。最高だ。ダン・アワーバックとパット・カーニー、ギターとドラムがどーんとステージ前面に位置して。その背後、小さなステージの後方にパーカッション、ギター、ベース、キーボードがきゅっと並んで。キーボードなんか、アワーバックのギター・アンプの裏側だもんなぁ(笑)。
でもって、全員一丸となってハシるしモタるし。でも、ぐいぐいグルーヴしているその様子がたまらなくて。トゥルバドールに詰めかけた幸運な数百人の観客同様、ネットのこちら側のぼくも大いに盛り上がった。ライヴ中盤、新作からの曲を連発したのだけれど。前後と何の違和感もなく。別に複雑じゃないのにとびきりかっこいいギター・リフと、荒々しいドラム・グルーヴがあればもうOK。ロックンロールは永遠だ、と。そんなことを、ライヴで、アルバムで、またまた思い知らせてくれたブラック・キーズだったのでありました。