Disc Review

The 1974 Live Recordings (27CDs) / Bob Dylan & The Band (Columbia Records)

偉大なる復活:1974年の記録/ボブ・ディラン&ザ・バンド

出ましたー。噂の27枚組!

ボブ・ディランとザ・バンドが久々にタッグを組んでスタジオ・レコーディングした1974年の共演アルバム『プラネット・ウェイヴズ』。そのリリースに合わせて同年1〜2月に行われた全米ツアーの模様を網羅したCDボックスセットだ。

このツアー、日々の大まかな構成はほぼ決まっていて。まだ細部まで固まっていなかった初日だけはちょっと違っていたものの。あとはだいたいファースト・セット冒頭にまずディラン&ザ・バンドによるディラン作品が6曲、続いてザ・バンドのみによる彼らのレパートリーが4〜5曲、再びディラン&ザ・バンドによるディラン作品が3曲。ここで休憩を挟んでセカンド・セットへ。まず冒頭ディランひとりによる弾き語りが5〜6曲、続いてザ・バンドのみで4曲、ディラン&ザ・バンドによるディラン作品が3曲。そしてアンコールにディラン&ザ・バンドで1〜2曲。もちろんディランのコンサートだけに、各パート、選曲/曲順はステージごとに少しずつ変わった。

ご存じの通り、このツアーの記録というと、同年6月にリリースされた熱狂の2枚組ライヴ盤『偉大なる復活(Before the Flood)』があるわけだけれど。あのライヴ盤は1月30日、2月13日、14日という3日間の音源から構成されたもので。ツアー終盤の記録。

それに対して、今回の箱は初日の1月3日からファイナルの2月14日まで、毎日のライヴ音源をCD1枚、あるいは2枚ずつに振り分けて収録したもの。ザ・バンド単体の演奏を除いた現存する音源すべて、全37曲431トラック(うち、未発表音源は417トラック)が、発見できた最良の状態で全曲収められている。

なので、ツアーの間、セットリストがどんなふうに入れ替えられていったかとか、アレンジがどう変わっていったかとか、ディランとザ・バンド、両者のコンビネーションがどう深まっていったかとかを真っ向から追体験できる内容だ。

このあたりのことは、以前出版した『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』とか、今回のボックスのライナーなどにも書かせてもらったことなのだけれど。

先述の通り、もともと『プラネット・ウェイヴズ』のリリースに合わせてスタートしたプロモーション・ツアーだったこともあって。ツアー初盤はそこそこ『プラネット…』の収録曲もやっていた。「タフ・ママ」とか「君の何かが(Something There is About You)」とか「いつまでも若く(Forever Young)」とか。同じセッションで録音されながらお蔵入りした「あなたのほかは(Nobody 'Cept You)」も。

けど、2月に入ったあたりで「いつまでも若く」だけ残して、ほぼセットリストから消滅。代わりに「ウェディング・ソング」がちょこっと出たり入ったりはしたものの、いつの間にか『プラネット…』色は希薄になって。

最終的にはオリジナル『偉大なる復活』に入っていたような1960年代の代表曲満載のセットリストに。しかも、「レイ・レディ・レイ」「天国の扉(Knockin' on Heaven's Door)」「見張り塔からずっと(All Along the Watchtower)」あたりを除けば、残りはすべて1966年以前のレパートリーばかり。

こうしたセットリストの変遷具合が今回のボックスを続けて聞いていくとよーくわかってくる。なんだよ、それ。懐メロ系セットリストになっていったってこと? と、ネガティヴに解釈することもできる変化ではあるのだろうけど。よく考えてみると、ディランが、まだザ・ホークスと名乗っていたザ・バンドの面々と、例の「裏切り者!」事件を含む忌まわしきワールド・ツアーを行い、各地で罵声を浴びせられていたのが1966年のことで。

そのときとほぼ同じ顔ぶれで、8年後、ほぼ同じ楽曲を演奏しながら全米各地を巡りながら、ディランとザ・バンドはアリーナ・クラスの会場に詰めかけた観客たちを大熱狂させたのだ。もうこの時点でディランのことを“裏切り者”と思っていたファンは誰ひとりいなかった。というわけで、忌まわしき“記憶”に対する彼らなりの回答、みたいな? そういったものに、この1974年のツアーが徐々に意味を変えていった、と。そう解釈すると、それはそれで大いに盛り上がる。8年越しのリベンジ、ね。

そんなふうに、いろいろ思うところの多いドデカ箱です。

ストリーミングは20曲の抜粋サンプラー。あと、サード・マン・レコーズは会員向けの“Vaultシリーズ”第61弾としてオリジナル『偉大なる復活』に未収録だった音源24曲をこのCD27枚から抜粋したカラーLP3枚組も通販で限定リリースするそうです。『偉大なる復活』と同ヴァージョンの「風に吹かれて(Blowin’ in the Wind)」をA面に、初出の「我が道を行く(Most Likely You Go Your Way (And I’ll Go Mine))」をB面に収めたボーナス7インチも付いているそうで。もう申し込みは締め切っちゃってるみたいだけど。うー、どうすれば入手できるかな…。

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